【書評】憲法の基本書・その1
さて、ここからは、憲法の基本書について、私が手元に持っていて読んだことがある範囲で(ときにその範囲を逸脱することもありますがご容赦ください)、試験との重要性に焦点をあてて書評を書いていきます。もちろん、筆者の私見ですので、ご参考までに。
まず、1~5の単著の基本書は、どれも有名な一冊ですね。これらを知らずに「憲法を勉強した」とは言えません。しかし、そのことと司法試験・予備試験の論文式試験の勉強は別です。結論としては、1~5のうち、持っておくとしても1冊(私のおすすめはやはり「試験に最も通用する」という意味で芦部憲法です)持っておけば十分だと感じています。もちろん、憲法学習が楽しい方などにおかれましては、次々と読み進めていっていただければと思います。ただし、ほかの科目の勉強も大事ですから、趣味だと割り切ってくださいね。
司法試験 ★★☆☆☆
予備試験 ★★☆☆☆
基礎学習 ★★☆☆☆
応用学習 ★☆☆☆☆
言わずと知れた「芦部憲法」です。
司法試験・予備試験に向けた勉強との関係でいえば、重要度はかなり低い一冊といわざるを得ません。もちろん、書いてある内容それ自体は、我が国の憲法学を基礎をなすものとなっている箇所が多く、高橋先生の補訂箇所を含め、記述も洗練されています。
しかしながら、司法試験・予備試験のために必要な「判例の射程の検討のためのエッセンス」あるいは「有力な学説」は掲載されていません。また、芦部先生の憲法学を学ぼうと思えば、本書ではなく、後ほどご紹介する別の書籍や個別の論文を読むほかないので、結局のところ、本書からはあまり学習することはない、ということになります。
平成28年度及び令和2年度の司法試験でも出題された移動の自由などの受験界ではマイナーな人権について、「最低限学習しておくべき内容は何か」と問われれば、本書に記述されている内容ということになるので、その意味で、受験の直前期に、「最低限度の理解」を確認するときには利用価値があるかもしれません。
これから紹介する他の書籍を用いるなどして憲法を深く勉強していけば、本書の水準もクリアできますのでその点はご心配なく。「芦部憲法」を何度繰り返し読んでも、論文式試験の勉強にはなりませんので、その意味で書籍としての重要度は★2つです。
司法試験 ★☆☆☆☆
予備試験 ★☆☆☆☆
基礎学習 ★★☆☆☆
応用学習 ★☆☆☆☆
こちらも、言わずと知れた「高橋憲法」ですが、概ね、芦部憲法と同様の理由で、学習上の重要性は低い一冊です。表現の自由の箇所は、記述が充実していて他書にはない高橋先生の見解がクリアに現れている箇所もありますので、表現の自由の学習をするときに「高橋憲法」の該当箇所も読んでみる、というのは理解を深める上で有益だと思います。
司法試験 ★☆☆☆☆
予備試験 ★☆☆☆☆
基礎学習 ★☆☆☆☆
応用学習 ★☆☆☆☆
さらにこちらも、言わずと知れた「佐藤幸治憲法」です。2020年に約9年ぶりの改版となりましたね!
佐藤幸治先生、といえば、例えば、自己情報コントロール権という権利概念を提唱されたことで有名だったりしますね。「憲法を学習した、と胸を張って言いたい」ということが目標なら、(多少分厚いけど)本書くらい読んでおいてねと言いたいところですが、本ブログの読者のみなさんは確実に司法試験・予備試験の論文式試験を突破することが目標のはずですので、その目標との関係ではやはり重要性が低い一冊ですね。
また、芦部憲法に比べるとかなり分厚いですし、さっと読むのにも適さないので、手元になくても問題ない一冊です。
4.長谷部恭男「憲法〔第7版〕」
司法試験 ★☆☆☆☆
予備試験 ★☆☆☆☆
基礎学習 ★☆☆☆☆
応用学習 ★☆☆☆☆
さらにさらにこちらも、言わずと知れた「長谷部憲法」です。長谷部憲法学、というと有名な示唆・視点は多いのですが、司法試験・予備試験との関係ではやや重要性が下がります(長谷部先生のご見解を知っていないと核心に迫れない問題など、実務家登用試験では出題され得ません。)。
長谷部先生のご見解や権威を否定する趣旨ではなく、あくまでも、確実に論文式試験を突破するためのツールとして、本書は適さない、という意味で、重要度はかなり低いと考えています。憲法の勉強が進んでくると「ベースライン論」をはじめとする長谷部先生のご見解に触れることがあると思います。長谷部先生のご見解の内容等を学びたい、知っておきたいというときには、今度は本書では記述が薄すぎますので、長谷部恭男『憲法の理性〔増補新装版〕』(後掲)などを紐解くのが手っ取り早いと思います。そのほかにも長谷部恭男「比較不能な価値の迷路〔増補新装版〕」など単著がいくつかありますので、目次を見ながら深めたいテーマに関する論稿があれば読んでみる、というのであれば「趣味としては」goodだと思います(論文式試験との関係では他にやるべきことがいくらでもありますのでそちらを優先しましょう)。
4’ 長谷部恭男「憲法の理性〔増補新装版〕」
司法試験 ★☆☆☆☆
予備試験 ★☆☆☆☆
基礎学習 ★☆☆☆☆
応用学習 ★★★★☆
マニア度 ★★★★☆
5.戸松秀典「憲法」
司法試験 ★★☆☆☆
予備試験 ★★☆☆☆
基礎学習 ★★☆☆☆
応用学習 ★☆☆☆☆
こちらは、芦部先生、高橋先生、佐藤先生、長谷部先生にくらべると少しネームバリューが落ちるでしょうかね 。別途、紹介しますが、戸松先生といえば、戸松秀典「憲法訴訟〔第2版〕」の方が有名でしょうか(後掲。こちらは、数年前の出題傾向(訴訟を前提とした主張反論型)を前提にすればかなり有益な一冊でした。)。現在は、高橋先生の「体系憲法訴訟」もありますが、同書が公刊されるまでは、憲法訴訟について体系的にまとめた書籍は戸松先生のご著書くらいしかありませんでした。
風のうわさで、本書が東大法学部の講義で教科書指定されていると聞いたことがありますが、それもうなづけるほど、記述が安定していて偏っていません。上述のとおり、私は芦部先生の憲法の方が読みやすい印象でしたが、一冊、コアになる本をもっておきたいという方には本書もおススメできます。ただし、本書のみで論文式試験の対策を行うのは不可能ですので、その意味で重要度はやはり低い一冊といわざるを得ません。
5’ 戸松秀典「憲法訴訟〔第2版〕」
司法試験 ★☆☆☆☆
予備試験 ★☆☆☆☆
基礎学習 ★☆☆☆☆
応用学習 ★★★☆☆
マニア度 ★★★☆☆
続く