立ち止まる勇気-司法試験・予備試験に確実に合格する勉強法の探究-

このブログは、司法試験受験指導予備校での経験等も踏まえて、筆者が司法試験に上位合格(2桁順位)するに至った勉強法を紹介しつつ、基本書の書評やときには司法試験問題の解説等の司法試験受験に有益な情報を発信し、ひいては少しでも多くの受験生の皆様に役立つ情報をお届けすることを志向するブログです。短期合格も大事ですが、合格の確実性の方が私はより重要だと思っていますので、「確実に」=「一発で」合格する勉強法を共に探り、法学を学ぶことの楽しさを司法試験の勉強からも感じ取っていただければ、望外の喜びです。

【書評】憲法の基本書・その2

 本日は、前回に引き続き、憲法の基本書の書評・第2弾です。

 今回は共著の基本書を中心にレビューしてみます。今回から、受験生必携の書籍も出てまいりますので、チェックしてみてくださいね。

 また、私がレビューしてない本で「この本はどーですか?」というのがあれば、どしどしお寄せください(なんなら買って読みます(笑))。

 

6.野中俊彦ほか「憲法Ⅰ〔第5版〕」

  司法試験 ★★☆☆☆

  予備試験 ★★★☆☆

  基礎学習 ★★☆☆☆

  応用学習 ★☆☆☆☆

憲法1 第5版

憲法1 第5版

 

 これまた言わずと知れた「四人組」(四人本という方もいますね)です。

 (少なくとも後掲の新四人組が出るまでは)基本書としてかなり定評があったので、筆者も学部生のときに購入し、学習のベースとしていました。今でも教科書指定している先生や法科大学院の講義があっても違和感はありません。

 しかし、私は、日々の学習の中で「よくわからない」点に出くわしたとき、本書を読んでも「よくわからない」ままであることがほとんどでした。後述のとおり、記述が薄いので、結局、別の書籍にもあたってみなくてはなりません。

 他方で、一つの論点について様々な見解・立場があることを知ることができるという意味では依然として良書だと思います。

 特に、判例の射程等を検討する必要がない(というより時間的・紙幅的余裕がない)予備試験のための基礎固めとしての利用価値は否定しません(その意味で予備試験との関係では★3つにしました。)。しかしながら、憲法にばかり時間を割いていられないのですが、読む書籍を絞りたいなら、本書は手元になくてもよいかもしれません。

 本書は、基本的に記述が薄いので、個別の論点や判例について理解を深めたいときに読んでも痒い所に手が届かないことが多いと思います。

 他方で、個別の論点について、見解ごとに論拠と批判を紹介している箇所が多いので、「そもそもどういう論点なのか分からない」「自説はあるけど、それに対する説得的な批判と再批判が思い当たらない」などの悩みには一定程度応えてくれると思います。

 予備校に通っていて、個別の論点について、A説・B説・C説・・・といった形である程度、見解の対立を押さえている方には不要な一冊、というまとめ方も可能です。予備校を利用されていない方においては、各論点ごとに、まずはどのような見解対立があり、どれくらい重要な論点なのかを押さえていく意味で、いわば「最初の一冊」としてもよいかもしれませんね。

 予備試験の論文式試験のレベルであれば、本書記載の内容を理解し、自分の言葉で表現できるレベルになっていれば、上位答案を書く土台としては十分でしょう(本書のみで上位合格答案をコンスタントに書くのはやや難しいかもしれません。)。

 総じて、良書、ではありますので、お手元に置いておいて損はない一冊ですが、後掲の新四人組の方が、より試験勉強には適しています。

 なお、本書は、統治分野も対になっていますが(野中俊彦ほか「憲法Ⅱ〔第5版〕」)、短答式も含めて、司法試験・予備試験向けの学習との関係では不要な一冊といって間違いないと思います。

 

6’ 野中俊彦ほか「憲法Ⅱ〔第5版〕」

憲法2 第5版

憲法2 第5版

 

  司法試験 ★☆☆☆☆

  予備試験 ★☆☆☆☆

 

7.渡辺康行ほか「憲法Ⅰ 基本権」

  司法試験 ★★★★★

  予備試験 ★★★★★

  基礎学習 ★★★★☆

  応用学習 ★★☆☆☆ 

憲法I  基本権

憲法I 基本権

 

  いわゆる「新四人本」です。現時点で、司法試験・予備試験向けの基本書として最適なのが本書です。

 本書を頭から読み進めていくことで、三段階審査的思考で審査密度を措定する流れを総論的につかみ、各個別の人権について、その理解を各論的に深めていくことができるよう工夫されています。

 「これ一冊だけで」憲法の学習として盤石、なわけではないのですが、基本書の数も多くなってきましたから、効率的に学習教材を選択していかなければならず、その際に、本書が最有力候補になることは間違いありません。

 筆者が司法試験を受験するときにはまだ本書は公刊されていなかったのですが、本書にもっと早く出会えていたら、もっと効率的に理解を深めることができたのにな~と思いました。

 司法試験の論文式試験では、いわゆる三段階審査(ドイツ憲法学ではもはや常識になっている思考定式です)的に思考を組み立てて論述を書くのがベストです。これは、司法試験で当初から三段階審査が採用されているからではなく(とはいえ、とある元最高裁判事に言わせれば、最高裁の中にもこの思考枠組みがあるといってよいらしいので、司法試験もそうかもしれません・・・)、自分の考えたことを端的に読み手(採点者)に伝える上で簡明な思考枠組みだからです。例えば、表現の自由に対する内容規制は、他の規制に比して厳格な審査が妥当する、と説かれますね。これは、三段階審査的に説明すれば、違憲審査の審査密度は被制約権利の重要性と規制態様の強度(と立法裁量または行政裁量を尊重(縮減)すべき自由の有無)を考慮して決定すべきところ、内容規制は規制態様として強力だから審査密度が厳格になる、といった説明になります(詳述すると長くなるので説明は敢えて端折っています。)。すなわち、内容規制vs内容中立規制という対立軸は、三段階審査を軸においた答案の中では、「審査密度を決定する考慮要素の1つである規制態様に関する議論」と明確に位置付けることが可能になります。

 以上のような理解を前提に、本書は、個別の論点・判例を、審査密度の決定過程のどこに位置付けるべきかを意識して説明がなされているので、思考の整理にもうってつけの良書です。

 繰り返しで恐縮ですが、本書だけ、ではダメですが、「基本書」として1冊何か買うなら、筆者は、ダントツで本書が最適だとおススメできます。まだお手元にない方で、憲法の学習が行き詰っていたり、イマイチ伸び悩んでいる、といった方はぜひ本書を手に取って読み進めてみてください。なお、あくまでも基本書なので、応用学習としては不十分な面があります、そこは他書を読みながら、でよいと思います。

 なお、こちらも統治分野がセットになっていますが、司法試験・予備試験の学習との関係では不要です(短答対策としてもややオーバースペックです。)。

 

7’ 渡辺康行ほか「憲法Ⅱ 総論・統治」

憲法II 総論・統治

憲法II 総論・統治

 

  司法試験 ★☆☆☆☆

  予備試験 ★☆☆☆☆

 

8.毛利透ほか「憲法Ⅱ 人権(LEGAL QUEST)〔第2版〕」

  司法試験 ★☆☆☆☆

  予備試験 ★☆☆☆☆

  基礎学習 ★☆☆☆☆

  応用学習 ★☆☆☆☆ 

憲法II 人権 第2版 (LEGAL QUEST)

憲法II 人権 第2版 (LEGAL QUEST)

 

 いわゆる「リークエ」の憲法ですね。

 有斐閣や「リークエ」編集者に悪意はないのですが、刑訴法を除き、リークエは出来が悪いですね…。おすすめの基本書を友人にきいて「リークエ」を勧められたら、その友人は基本書選定との関係では信頼性皆無と判断してよいと思います(笑)

 本書は、学習上不要と判断し、通読まではしていませんが、脚注もなく、何がだれの見解で、といったことも分かりませんし、個別の議論の体系的位置づけも不明瞭な記載が多いように感じられます。また、旧四人本に比して、紹介されている学説も少ないので、敢えて本書を選択する理由が特に見当たりません。

 憲法は、論者によって見解がまちまち、といったことも多いので、それらを整理して理解することが、私も含め、凡人にとっては難関の1つです。学習の過程で「憲法ってよくわからない…」という境地に達するときは、この難関で立ち止まっていることが多いのではないかと思います。

 本書でこの難関を突破できるとは到底思えませんので、手元になくて何ら問題ない一冊だと考えます。なお、本書も総論・統治がセットになっていますが(毛利透ほか「憲法Ⅰ 総論・統治(LEGAL QUEST)〔第2版〕 」)、試験対策としてはまず不要です。

 

8’ 毛利透ほか「憲法Ⅰ 総論・統治(LEGAL QUEST)〔第2版〕 」 

憲法I 総論・統治 第2版 (LEGAL QUEST)

憲法I 総論・統治 第2版 (LEGAL QUEST)

 

  司法試験 ★☆☆☆☆

  予備試験 ★☆☆☆☆

  

9.安西文雄ほか「憲法学読本〔第3版〕」

  司法試験 ★★★★☆

  予備試験 ★★★★★

  基礎学習 ★★★★☆

  応用学習 ★★☆☆☆ 

憲法学読本 第3版

憲法学読本 第3版

 

 こちらも、結論から申し上げれば、良書ですね。ただし、(私の感覚では)三段階審査的思考が身についてから読まないと、記述を自分のものにできない気がします(本書自体は、各種議論の体系的位置づけにそこまで配慮していないような気がします)。

 本書は、かなり薄めなのですが、反面、記述は洗練されていて、簡にして要を得たとはこのこと、といった一冊です。特に、宍戸先生がご執筆されている表現の自由の箇所は必読ですね(本書でしか見かけたことがないように思いますが、内容中立規制の箇所は、本書を読んだことがあるかないかで、試験の点数が変わる場合があるといっても過言ではありません。)。

 新四人本や、小山先生の「『憲法上の権利』の作法」等で三段階審査的思考を身につけるのが先決ですが、ある程度、身についてきたな、イメージは持ててきたなと思ったら、副読本として手元において、立ち止まる度に読んでみるべき一冊です。

 ややコンパクトな書評で恐縮ですが、要は、勉強が進んできたら手元に置いておいて都度参照してね!ということです。

 

10.木下智史・伊藤建「基本憲法基本的人権

  司法試験 ★★★☆☆

  予備試験 ★★★★☆

  基礎学習 ★★★★☆

  応用学習 ★★☆☆☆ 

基本憲法I 基本的人権

基本憲法I 基本的人権

 

 基本刑法もそうですが、「予備校本的な基本書」という一冊です。伊藤建先生は、予備校講師ですね。「憲法の流儀」というブログでも有名で(憲法の流儀~実学としての憲法解釈論~ (ameblo.jp))、かつて黄色い看板の予備校で憲法を教えておられたこともある受験指導の世界では有名な先生です。伊藤先生は私よりもはるかに憲法の理解に長けていると思いますが、あともう少し、受験生の悩みに真正面から応える本にすればよいのに…というのが、初読の際の感想でした(書ききれないdilemmaは理解できますが、そのまま答案に書いても点数はつかないレベルにとどまった抽象的な記述も多いですね。)。

 本書は、徹頭徹尾、「司法試験対策として」記述が進んでいきますので、一冊目に手に取る本としては、ベストかもしれません。本書だけで司法試験に挑むのは、(センスにあふれた一部の方を除き)危険だと思いますので、本書からステップアップして次なる書籍へ進んで欲しいと思いますが、事例問題に対する検討の視点や、判例の使い方も随所で説明がなされており、総じて、受験生向けの良書といえます。なお、私が仮にまだ受験生であれば、(失礼ながら権威に不安大なので笑)本書をベースに学習することはないと思います。本書で仮にピンとくる記述があっても、その裏付けが取れないと答案には怖くて書けません(なので、まずは脚注を付せばいいのに、と心から思いますね…。)。そして、脚注がないので、いちいち裏取りをしなければならない点で、学習上は不便が残る一冊です。

 と、やや消極的なコメントも申し上げましたが、とある論点や判例で行き詰ってしまったときに、本書は紐解いてみる候補になる一冊でもあると思います。司法試験受験生向けの記述にはなっていますので、理解のヒントになることも多いかもしれません。ただ、繰り返しますが、「本書に書いてあるから」という理由のみで試験の答案で堂々と書くのは危ない橋を渡りすぎですので、可能な限りできちんと裏取りもしましょう。

 

まだまだ続く