立ち止まる勇気-司法試験・予備試験に確実に合格する勉強法の探究-

このブログは、司法試験受験指導予備校での経験等も踏まえて、筆者が司法試験に上位合格(2桁順位)するに至った勉強法を紹介しつつ、基本書の書評やときには司法試験問題の解説等の司法試験受験に有益な情報を発信し、ひいては少しでも多くの受験生の皆様に役立つ情報をお届けすることを志向するブログです。短期合格も大事ですが、合格の確実性の方が私はより重要だと思っていますので、「確実に」=「一発で」合格する勉強法を共に探り、法学を学ぶことの楽しさを司法試験の勉強からも感じ取っていただければ、望外の喜びです。

【書評】憲法の演習書・判例集・その他

 こんにちは、すしおです。

 またしても、だいぶ更新が止まってしまいました…だめですねぇ。

 読んでいただいていた方には大変申し訳ありません。大型の訴訟やM&Aが重なるとしばらく身動きがとれないのですよね~

 

 さて、本日は、憲法の演習書・判例集の書評です。

 司法試験の論文式試験対策として、演習書は役立つことが多いのですが、憲法の場合は、ほとんど役立つことがありません。というのも、過去問を解いたことがある方はお分かりと思いますが、憲法という科目は、典型論点を事例問題の中から抽出できるかという能力や既存の議論(の論証パターン)を吐き出せば得点になる、という科目ではないからです。憲法という科目は、そういった能力ではなく、目の前の事案を最高裁判例と主要な学説を参照しながら分析する能力+その分析(審査密度の設定やあてはめ、判例の射程あるいはどの判例を参照できるかの検討が配点ポイントになります。)を言語化する能力が他の科目に比して飛び抜けて重要です。後者の能力は、その能力を備えた人に答案を添削してもらうほかに対策のしようがありません。前者の能力については演習書で鍛えられるのですが、残念ながら、本記事執筆時点で公刊されている演習書に掲載されている事例問題は司法試験の問題に比べれば、だいぶレベルが低い(というか日本で実際にあった事例のリメイクにすぎない)ので、前者の能力を鍛えるにもやや物足りない感があります。

 判例集は、通読するというよりは、基本書や演習書で出会う判例の判文に当たりつつ、深い理解を得る副教材として最低一冊は必要です。必ずどれか一冊は持っておきましょう(判文に当たらずに判例学習した気になっている受験生にたまに会いますが、そのような表面的な薄っぺらい知識で論文式試験が解けるほど甘くはないと思います。)。

 というわけで、既にレビュー済みの基本書を順に複数読み進めていただき、基礎的な分析力を地道に養っていただく、というのが険しいながらも最短ルートになると思います。周囲に優秀な勉強仲間がいれば、一緒に司法試験の過去問を検討するのもよいと思います!なお、大事なことなので、(思い出したこのタイミングで)敢えて申し上げますが、「優秀でない」(と思う)方と過去問検討会をするのは時間の無駄なのでやめましょう。仲良しな時間を過ごしたいなら止めませんが、試験勉強という意味では、自分よりも優秀でない人とだらだら喋りながら、あーでもないこーでもないと話していても何の能力も伸びていません。私は法科大学院を経由して司法試験を受験しましたが、他校を含め、法科大学院にもこういった無意味な勉強会をしている人が大勢いました…。

 

 以上のとおり、演習書の有用性は高くないのですが、レビューしてみます。すしおが思う用法も記載してみましたので併せてご参考になれば嬉しいです^^

 

【演習書】

1.宍戸常寿編著「憲法演習ノート〔第2版〕」

  司法試験 ★★★★☆

  予備試験 ★★★★☆

憲法演習ノート: 憲法を楽しむ21問

憲法演習ノート: 憲法を楽しむ21問

 

   弘文堂の演習ノートシリーズの憲法パートですね(選択科目が倒産法の方は「倒産法演習ノート〔第3版〕」は必読です!)。憲法の演習書、の中では比較的使いやすい一冊だと思います。複数の先生の共著になっており、一部、(少なくとも私は)読みにくい、分かりにくい章があったりします。受験生のときはその部分は読み飛ばしていました(ほかにいくらでも読むべきものはあるので…)。

  本書の用法ですが、純粋に事例問題を解く、という用法はおススメしません。設例を読み、①審査密度(法令違憲の事例であれば、違憲審査基準の厳格度)をめぐってどのような主張・見解の対立があり得るか、②自分で設定した審査密度を前提にあてはめにおいてどのような主張・見解の対立があり得るか、③この2つとの関係でどの判例をどのように参照できるか、を解説を読まずに検討し(15分くらいでやりましょう。試験本番も答案構成にはせいぜい20分~30分程度しか割けないと思いますので、演習のときは自分を追い込みましょう。)、解説を読んで答え合わせ、という用法がおススメです。解説の中で、参照判例の幅広さや、参照判例自体の深い理解に出会えることもありますので、一度読んだら、その問題から得た知識や視点をまとめノートに書き写すなどして情報の一元化に努めましょう。

 

2.木下智史ほか編著「事例研究憲法〔第2版〕」

  司法試験 ★★★☆☆

  予備試験 ★★☆☆☆ 

事例研究 憲法 第2版

事例研究 憲法 第2版

 

  日本評論社の事例研究シリーズの憲法パートですね(事例研究行政法が特に有名ですね!)。

 こちらは、設例・解説ともに長めで、私のような憲法の勉強が大好きな変人以外には少し重たい一冊かもしれません(なお、私人間効力(団体vs構成員という事案類型)の問題は秀逸で理解がグッと深まったのを覚えています。)。

 司法試験との関係では、余力がある人や憲法を得意科目にしたい人は一日一題を目安にゆっくり読み進めていかれるのがよいのでは?と思います。司法試験との関係で必携とまでは思いませんので、基礎固めや他の科目に力を割かないといけない、といった受験生の方は後回しでOKだと思います。

 

3.渋谷秀樹「憲法起案演習」

  司法試験 ★★★☆☆

  予備試験 ★★☆☆☆

憲法起案演習―司法試験編

憲法起案演習―司法試験編

  • 作者:渋谷 秀樹
  • 発売日: 2017/12/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

  司法試験の過去問を題材にした演習書です。こう言っては何ですが、受験生の悩み(答案の書き方や判例の理解そのものなど)に応えるとはいえず、読み物として読んでいくにはいいのかな…と思います。答案の分量も、制限時間内に書くことができる量を(少なくとも私の筆記速度ベースでは)優に超えており、なぜそのような書き方になるのか、といった思考過程が見えないので、私が受験生であれば、本書に助けられることはあまりないだろうな、という印象です。

 

 

判例集

1.長谷部恭男ほか編「憲法判例百選Ⅰ・Ⅱ〔第7版〕」

  司法試験 ★☆☆☆☆

  予備試験 ★☆☆☆☆ 

憲法判例百選I 第7版 (別冊ジュリスト)

憲法判例百選I 第7版 (別冊ジュリスト)

  • 発売日: 2019/11/29
  • メディア: ムック
 
憲法判例百選II 第7版 (別冊ジュリスト)

憲法判例百選II 第7版 (別冊ジュリスト)

  • 発売日: 2019/11/29
  • メディア: ムック
 

 いわずと知れた判例百選ですが、司法試験・予備試験の論文式試験との関係では★1つです。誤解している受験生も多いなと感じるので、敢えてこの評価をつけています。

 判例百選に載っている判例」である、ということは重要なのですが、 見開き1頁という極めて少ない紙幅の限界がある本書は、教材として不十分というほかありません。きちんと解説しようと思えば、事案の概要と判旨を丁寧に紹介せざるを得ませんがそうすると解説が狭くなる、というジレンマを抱えた判例集で、百選解説で当該判例の理解が十分になることはあり得ません(司法試験との関係で百選が重要なのは、会社法・刑訴法のみです。選択科目が倒産法の方は倒産判例百選も必携です!)。

 一部の法科大学院では判例百選の上記のような問題点を無視して教材指定し、未修者の方を中心に判例百選を一生懸命読んで「憲法分からない…」と悩んでおられる方がいらっしゃるようですが、それはあたりまえです…。

 というわけで、司法試験との関係で、判例百選憲法の重要性はかなり低いということはここできちんと強調しておきます。

 

2.戸松秀典・初宿正典編著「憲法判例〔第8版〕」

  司法試験 ★☆☆☆☆

  予備試験 ★☆☆☆☆ 

憲法判例 第8版

憲法判例 第8版

 

  あまり説明は要らないと思いますが、解説を伴わない判例集なので、学習上は不要です。私が法学部生の頃はあまり判文を詳細に紹介する判例集がなかったので、重宝することもあったのですが、近時は判文も丁寧に引用しながら解説を付している判例集が増えてきているので、本書の利用価値は低いと評価せざるを得ないと思います。ちなみに、書籍の表紙デザインは個人的にかなり好みです。

 

3.木下昌彦編集代表「精読判例憲法〔人権編〕」

  司法試験 ★★★★★

  予備試験 ★★★★★ 

精読憲法判例[人権編]

精読憲法判例[人権編]

  • 発売日: 2018/02/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 平成30年に公刊された判例集ですが、本記事執筆時点では最良の判例集といってよいと思います。判文の紹介も詳細で、解説も該当の判文の箇所が分かるように付してあって便利ですね。判例の理解は判例集のみから、ではなく、基本書等から学んでいくのがまずは第一歩なので、副教材としてお手元においていただく判例集としては大変おススメです!

 分厚くてサイズが大きめ、というのと掲載判例が少し少ない?が個人的にはマイナスポイントですが、もはや趣味の領域なので、気にせず、お手元に一冊置いておきましょう。

 

4.横大道聡編著「憲法判例の射程〔第2版〕」

  司法試験 ★★★★★

  予備試験 ★★★★★ 

憲法判例の射程 第2版

憲法判例の射程 第2版

  • 発売日: 2020/08/25
  • メディア: 単行本
 

 こちらも、最近よく利用されている判例本ではないかと思います。

 判例をじっくり丁寧に読みたい、というタイプの方は上掲の「精読憲法判例」の方がよいのでは?と思いますが、私のように、まずはその判例のポイント等をクイックに掴みたい、というタイプの方は本書がおススメです。

 司法試験の答案では、既存の有名な判例への言及は必須ですし(といっても、近年の司法試験は言葉を失うほどにレベルが下がっている印象で、とうとう、令和4年は、短答突破後の論文式試験の倍率が2倍を下回ってましたね…)、予備試験でも、既存の判例にきちんと言及できるのが望ましいと思います。

 しかし、未だに答案にきちんと判例を使えない受験生が大半なので、本書も利用しながら答案に判例が使えるようになると一気に得点を上げることができるのではないかと思います。もちろん、判例の使い方、の理解が先決で、本書を読んだら判例が使えるようになる、というものではないと思いますが、判例の使い方がわかってきたら、本書を読み進めて、効率よく、重要判例のエッセンスを蓄えていくのがよいのではないか、と思います。

 かなりの人数での共著、のため、解説文の読みやすさやレベルに相応のばらつきがあるのが残念なポイントです。わかりにくいと感じる解説はさっさと読み飛ばす(その判例については別の教材で勉強すればよいだけです。)、という用法でよいと思います。

 

 

 さて、ここまで、いろいろと書籍を紹介してきました。

 本当はまだまだあるのですが、受験生として触れておくべき書籍群としては、本ブログでご紹介した範囲で概ねカバーされているのではないか、と思います。時間的に余力がある方や、気分転換に憲法の少し深い勉強を、という方は、表現の自由などの重要テーマを中心に、権威あるところから論文を読み進めていくといいと思います。政府言論や違憲な条件の法理、匿名表現の自由、など受験生としては必須でない考え方も、理解しておくと司法試験で大いに役立ちます(文系でも、数3Cを勉強しておくと大学受験で使えるよ!みたいなイメージです。)。

 

 というわけで、次回からは刑訴法に話題を変えていこうと思います。

 あ、そういえば、最近こんな本も出ましたね!笑 息抜きに読んでみては?と思います。

 

 

 息抜きとして読むのにおススメな本として、ほかにも

 

 

 がおススメです。

 ふぅ、今日はここまでですかね。次回もお楽しみにしていただければと思います。どこかで一回司法試験の解説とかもしないといけませんね…!