立ち止まる勇気-司法試験・予備試験に確実に合格する勉強法の探究-

このブログは、司法試験受験指導予備校での経験等も踏まえて、筆者が司法試験に上位合格(2桁順位)するに至った勉強法を紹介しつつ、基本書の書評やときには司法試験問題の解説等の司法試験受験に有益な情報を発信し、ひいては少しでも多くの受験生の皆様に役立つ情報をお届けすることを志向するブログです。短期合格も大事ですが、合格の確実性の方が私はより重要だと思っていますので、「確実に」=「一発で」合格する勉強法を共に探り、法学を学ぶことの楽しさを司法試験の勉強からも感じ取っていただければ、望外の喜びです。

刑訴法の勉強法と令和4年の予備試験論文式試験(刑訴法)の答案例

さて、今日も元気にブログ更新です!すしおです。

あまり気づかれないところでひっそりと笑

さて、今回は刑訴法の勉強法その1です。

既にご案内した憲法の勉強法とはかなり違いますね、刑訴法は既に良書もたくさん存在していますので、それらの書籍とも向き合いながら、まずは、基本的な論点を「深く」理解することに尽きると思います。

「捜査の実効性と人権保障の調和の観点から」などといった低級の極みとでもいうべき論証で満足していたのでは、刑訴法を「勉強した」とはいえません。

 強制処分法定主義と令状主義の違い(強制処分であれば令状が必要、といったある種の誤解丸出しの論述をよく目にしますが、このような短絡的な論述を書けばそれで十分、という思い込みは本当に危険です。例えば、強制処分たる現行犯逮捕には令状不要ですし、捜索や差押えに付随して行われる「必要な処分」だって、それが強制に至っていても別個の令状は不要です。なのに、強制処分=令状主義の規律に服する、というそれ自体おおいに疑わしい定式のようなものを盲目的に頭に入れているようでは、刑訴法の理解は進まず、得点も頭打ちになります。)、場所に対する令状の効力の範囲、自白法則の射程距離(不任意自白の派生証拠の証拠能力の問題、といって問題の所在がつかめますかね?)、違法な逮捕に引き続く勾留の適法性(なぜこれが「問題」なのか、きちんと説明できますでしょうか。)など、刑訴法を学習すれば一度は必ず目にするような基本論点の1つずつについて、丁寧に理解を深めていこうという意識が重要です。予備校が提供するような三流の論パを見てそれを100点の論証と思い込み、論証パターンの暗記をどれだけ頑張っても、三流のままです。

 本ブログでご紹介する書籍も適宜利用しながら、共謀共同正犯者の現行犯逮捕の可否といった少しマイナーな論点等にも触れつつ、何が出題されてもよいように万全の準備を整えることが重要ですね。

 さて、勉強法に話を戻しましょう。刑訴法の論文式試験は、司法試験と予備試験で少し勉強法(というよりも、勉強の過程で意識しなければならないポイント?)が違いますが、共通していえることは、基本的な論点が出題され、その理解の深度によって合否が分かれている、ということです。どういうことか、令和4年の予備試験を例に考えてみましょう(令和4年予備試験:刑訴法の論文式試験の問題文はこちら)。答案例はこの記事の末尾です。

 この問題ですが、論点は明快ですね。明快に感じない方は、基礎的な学習が不足していますので、まずはきちんと基礎固めをしましょう。次に論点抽出がきちんとできた皆様は、

①場所に対する令状の効力が、当該場所に「属する物」に及ぶのはなぜか、②場所に対する捜索令状の執行開始後に当該場所に搬入された物について、当該令状の効力が及ぶとすればなぜか、③これを認めた最高裁判例は②について理由を述べていないところ、その射程距離についてどのような議論があるか

 について、即答できますでしょうか。このいずれも、判例百選や本ブログでご紹介する基本書を用いて丁寧に勉強していれば、一定の水準の回答にはたどり着く問いです。

 しかし、上記①について、理由も考えずに「場所に属する物は令状の効力が及ぶんだよね」ということを「覚えただけ」の人は、得点が伸び悩みます。大事なことは、今の自分のインプットが「十分な理解に裏付けられたものか」、それとも「ただ覚えただけのものか」を自分で判別できることです。この判別すらできないと、自分が理解不足であることにすら気づかずに、使えもしない知識を覚えることが勉強であると思い込んで時間を浪費することになります。

 というわけで、刑訴法の論文式試験の勉強は、ニッチな論点などについて知識の「幅」を広げるよりも、誰もが知っている典型論点についての理解の「深さ」を極めることが重要です。予備校を使って勉強している方は、予備校で重要論点であると教わったポイントの1つ1つについて、基本書や判例百選等を使いながら理解を深め、その深まった理解を瞬時に論証として答案に起こせるように論証パターン化しておく、のが基本ですね。

 論点を1つ1つさらっているとキリがないので、重要論点に関する自作論証パターンをベースに深堀りして理解を深めていくゼミを企画中です。追って、ご案内できればと思います、憲法も結局まだご案内できてないですね…

 次回から、基本書等の書評に移ろうと思います!

 では、令和4年の予備試験の答案例を載せておきます。答案例を見ていただければ、解説は不要では?と思いますが、質問等や扱ってほしい論点等があれば、お気軽にコメントいただければと思います!

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第1 ①の行為について

1 本件捜索令状は、「A方居室」という場所に対するものであるところ、①の行為はキャリーケースという「物」に対する捜索であるため、同令状の効力が、甲のキャリーケースに及ぶかが問題となる。

(1) そもそも、場所に対する捜索令状は、当該場所に対するプライバシー権を制約する「正当な理由」を裁判官が事前に審査して発付されるものである。

 そして、当該場所に属する物、すなわち、当該場所の管理権者と同一の者の管理権に服する物であれば、その物に関する利益も当該場所に関するプライバシーの中に包摂されているため、当該場所に対する捜索令状の効力が及ぶと考える。

(2) そこで、甲のキャリーケースがA方居室に属する物といえるかを検討するに、同キャリーケースは、甲が玄関内において所持していたのであるから、物理的にA方居室の内部にあるものである。

 また、同キャリーケースは無施錠であり、Aが自由に開披できない第三者の金庫等と異なり、同キャリーケースの中身についてはAがいつでも自由にアクセスできるものである。

 したがって、同キャリーケースについてA以外の者が別個独立に有しているプライバシー的期待は存在せず、Aの管理に服するものといえ、A方居室に属する物と評価できる。

(3) なお、同キャリーケースは甲が所持しているが、本件捜索令状の対象である場所に属している限り、当該「物」に対する捜索に係る「正当な理由」は令状審査の過程で判断済みであるから、その場に居合わせた者が当該「物」を所持しているか否かというその後の偶然の事情によって、捜索の可否は左右されない。

2 したがって、本件捜索令状の効力は甲のキャリーケースにも及び、同令状に基づく捜索として、①の行為は適法である。

第2 ②の行為について

1 乙のボストンバッグは、捜索手続開始後に、Aとは異なる乙がA方居室に持ち込んだものであるが、これに本件捜索令状の効力が及ぶか。

(1) まず、捜索手続開始後に搬入された物に、令状の効力が及ぶか。

ア この点、令状呈示により捜索場所の管理状態が固定され、それ以降に搬入された物には当該令状の効力が及ばないという考え方もあり得るが、令状呈示(刑訴法110条)の趣旨は、手続の公正を担保し、被処分者に不服申立ての機会を与え、その人権に配慮することにあるから、この趣旨を超えて捜索差押許可状の効力を限定的に解釈することは妥当でないと考える。

 そもそも、捜索差押令状は、その有効期間(同法219条)内に捜索場所に押収対象物が存在する蓋然性を審査して発付されるものであるから、当該令状の執行終了時までに搬入された物であれば、令状の効力が及ぶと考えるべきである。

イ よって、捜索手続開始後に搬入された物にも、令状の効力は及び得る。

(2) では、手続開始後に搬入された乙のボストンバッグにも捜索令状の効力が及び得るとして、本件ボストンバッグにも具体的に令状の効力が及ぶか。

ア この点、乙は本件捜索差押許可状の被疑者たるAとA方居室に同居し、かつAの親族である。すなわち、乙のボストンバッグが物理的な空間としてA方に入る過程でAによる占有取得行為は介在していないとしても、乙は普段、A方に届く郵便物等を受領することも可能な立場にあるから、同ボストンバッグは、Aによる占有取得に準ずる過程を経て、A方という空間に入ったものと評価できる。

 また、乙が所持するボストンバッグが、乙とは異なる第三者の所有物であると窺われる事情もなければ、チャックに重ねて別途施錠されていたという事情もない。

 したがって、同ボストンバッグは、当該場所に関するものと別個独立に保護されるプライバシー的期待の存在しないA方居室という場所に属する物と評価できる。なお、同ボストンバッグを乙が所持しているという事実によって捜索に係る「正当な理由」の存否が左右されないことは前述のとおりである。

イ よって、ボストンバッグは本件捜索差押許可状の効力は乙が所持するボストンバッグにも及ぶと考える。

(3) 以上より、乙が所持するボストンバッグは本件捜索差押許可状によって捜索することが可能である。

2 では、捜索に際して、乙を羽交締めにした行為は適法か。

(1) この点、捜索差押手続に対する妨害行為に対しては、それを排除して捜索差押えの目的を達成するために、「必要な処分」(同法222条1項、111条1項)として、捜査比例の原則に適合する必要かつ相当な手段を講じることができる。

(2) 本件では、A方居室に属するボストンバッグが捜索の対象となっているところ、乙がこれを両腕で抱きかかえて捜索を拒否しており、これを排除せずには捜索を実施することができないから、羽交い絞めにして、乙の腕をバッグから剥がす必要がある。

 また、Pらは、有形力行使に先立って口頭で中身の開示を促しているし、乙の顔面を殴打して抵抗を排除するといった攻撃的手段ではなく、乙の両腕をバッグから剥がす直截的な手段である羽交締めを選択しているから、上記必要性に照らし、相当な範囲の有形力行使であるといえる。

(3) よって、本件の羽交締めも「必要な処分」として適法である。

3 以上より、②の行為は全体として適法である。

                                    以 上

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 もちろん、批判的にご検討いただければと思いますが、最低限、上記くらいの答案を書けるようになっていないと、「不勉強」と言われても文句は言えないかな、と思います。さて、息抜きはここまでですかね…DD頑張ります…!