立ち止まる勇気-司法試験・予備試験に確実に合格する勉強法の探究-

このブログは、司法試験受験指導予備校での経験等も踏まえて、筆者が司法試験に上位合格(2桁順位)するに至った勉強法を紹介しつつ、基本書の書評やときには司法試験問題の解説等の司法試験受験に有益な情報を発信し、ひいては少しでも多くの受験生の皆様に役立つ情報をお届けすることを志向するブログです。短期合格も大事ですが、合格の確実性の方が私はより重要だと思っていますので、「確実に」=「一発で」合格する勉強法を共に探り、法学を学ぶことの楽しさを司法試験の勉強からも感じ取っていただければ、望外の喜びです。

刑訴法の勉強法と令和4年の予備試験論文式試験(刑訴法)の答案例

さて、今日も元気にブログ更新です!すしおです。

あまり気づかれないところでひっそりと笑

さて、今回は刑訴法の勉強法その1です。

既にご案内した憲法の勉強法とはかなり違いますね、刑訴法は既に良書もたくさん存在していますので、それらの書籍とも向き合いながら、まずは、基本的な論点を「深く」理解することに尽きると思います。

「捜査の実効性と人権保障の調和の観点から」などといった低級の極みとでもいうべき論証で満足していたのでは、刑訴法を「勉強した」とはいえません。

 強制処分法定主義と令状主義の違い(強制処分であれば令状が必要、といったある種の誤解丸出しの論述をよく目にしますが、このような短絡的な論述を書けばそれで十分、という思い込みは本当に危険です。例えば、強制処分たる現行犯逮捕には令状不要ですし、捜索や差押えに付随して行われる「必要な処分」だって、それが強制に至っていても別個の令状は不要です。なのに、強制処分=令状主義の規律に服する、というそれ自体おおいに疑わしい定式のようなものを盲目的に頭に入れているようでは、刑訴法の理解は進まず、得点も頭打ちになります。)、場所に対する令状の効力の範囲、自白法則の射程距離(不任意自白の派生証拠の証拠能力の問題、といって問題の所在がつかめますかね?)、違法な逮捕に引き続く勾留の適法性(なぜこれが「問題」なのか、きちんと説明できますでしょうか。)など、刑訴法を学習すれば一度は必ず目にするような基本論点の1つずつについて、丁寧に理解を深めていこうという意識が重要です。予備校が提供するような三流の論パを見てそれを100点の論証と思い込み、論証パターンの暗記をどれだけ頑張っても、三流のままです。

 本ブログでご紹介する書籍も適宜利用しながら、共謀共同正犯者の現行犯逮捕の可否といった少しマイナーな論点等にも触れつつ、何が出題されてもよいように万全の準備を整えることが重要ですね。

 さて、勉強法に話を戻しましょう。刑訴法の論文式試験は、司法試験と予備試験で少し勉強法(というよりも、勉強の過程で意識しなければならないポイント?)が違いますが、共通していえることは、基本的な論点が出題され、その理解の深度によって合否が分かれている、ということです。どういうことか、令和4年の予備試験を例に考えてみましょう(令和4年予備試験:刑訴法の論文式試験の問題文はこちら)。答案例はこの記事の末尾です。

 この問題ですが、論点は明快ですね。明快に感じない方は、基礎的な学習が不足していますので、まずはきちんと基礎固めをしましょう。次に論点抽出がきちんとできた皆様は、

①場所に対する令状の効力が、当該場所に「属する物」に及ぶのはなぜか、②場所に対する捜索令状の執行開始後に当該場所に搬入された物について、当該令状の効力が及ぶとすればなぜか、③これを認めた最高裁判例は②について理由を述べていないところ、その射程距離についてどのような議論があるか

 について、即答できますでしょうか。このいずれも、判例百選や本ブログでご紹介する基本書を用いて丁寧に勉強していれば、一定の水準の回答にはたどり着く問いです。

 しかし、上記①について、理由も考えずに「場所に属する物は令状の効力が及ぶんだよね」ということを「覚えただけ」の人は、得点が伸び悩みます。大事なことは、今の自分のインプットが「十分な理解に裏付けられたものか」、それとも「ただ覚えただけのものか」を自分で判別できることです。この判別すらできないと、自分が理解不足であることにすら気づかずに、使えもしない知識を覚えることが勉強であると思い込んで時間を浪費することになります。

 というわけで、刑訴法の論文式試験の勉強は、ニッチな論点などについて知識の「幅」を広げるよりも、誰もが知っている典型論点についての理解の「深さ」を極めることが重要です。予備校を使って勉強している方は、予備校で重要論点であると教わったポイントの1つ1つについて、基本書や判例百選等を使いながら理解を深め、その深まった理解を瞬時に論証として答案に起こせるように論証パターン化しておく、のが基本ですね。

 論点を1つ1つさらっているとキリがないので、重要論点に関する自作論証パターンをベースに深堀りして理解を深めていくゼミを企画中です。追って、ご案内できればと思います、憲法も結局まだご案内できてないですね…

 次回から、基本書等の書評に移ろうと思います!

 では、令和4年の予備試験の答案例を載せておきます。答案例を見ていただければ、解説は不要では?と思いますが、質問等や扱ってほしい論点等があれば、お気軽にコメントいただければと思います!

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第1 ①の行為について

1 本件捜索令状は、「A方居室」という場所に対するものであるところ、①の行為はキャリーケースという「物」に対する捜索であるため、同令状の効力が、甲のキャリーケースに及ぶかが問題となる。

(1) そもそも、場所に対する捜索令状は、当該場所に対するプライバシー権を制約する「正当な理由」を裁判官が事前に審査して発付されるものである。

 そして、当該場所に属する物、すなわち、当該場所の管理権者と同一の者の管理権に服する物であれば、その物に関する利益も当該場所に関するプライバシーの中に包摂されているため、当該場所に対する捜索令状の効力が及ぶと考える。

(2) そこで、甲のキャリーケースがA方居室に属する物といえるかを検討するに、同キャリーケースは、甲が玄関内において所持していたのであるから、物理的にA方居室の内部にあるものである。

 また、同キャリーケースは無施錠であり、Aが自由に開披できない第三者の金庫等と異なり、同キャリーケースの中身についてはAがいつでも自由にアクセスできるものである。

 したがって、同キャリーケースについてA以外の者が別個独立に有しているプライバシー的期待は存在せず、Aの管理に服するものといえ、A方居室に属する物と評価できる。

(3) なお、同キャリーケースは甲が所持しているが、本件捜索令状の対象である場所に属している限り、当該「物」に対する捜索に係る「正当な理由」は令状審査の過程で判断済みであるから、その場に居合わせた者が当該「物」を所持しているか否かというその後の偶然の事情によって、捜索の可否は左右されない。

2 したがって、本件捜索令状の効力は甲のキャリーケースにも及び、同令状に基づく捜索として、①の行為は適法である。

第2 ②の行為について

1 乙のボストンバッグは、捜索手続開始後に、Aとは異なる乙がA方居室に持ち込んだものであるが、これに本件捜索令状の効力が及ぶか。

(1) まず、捜索手続開始後に搬入された物に、令状の効力が及ぶか。

ア この点、令状呈示により捜索場所の管理状態が固定され、それ以降に搬入された物には当該令状の効力が及ばないという考え方もあり得るが、令状呈示(刑訴法110条)の趣旨は、手続の公正を担保し、被処分者に不服申立ての機会を与え、その人権に配慮することにあるから、この趣旨を超えて捜索差押許可状の効力を限定的に解釈することは妥当でないと考える。

 そもそも、捜索差押令状は、その有効期間(同法219条)内に捜索場所に押収対象物が存在する蓋然性を審査して発付されるものであるから、当該令状の執行終了時までに搬入された物であれば、令状の効力が及ぶと考えるべきである。

イ よって、捜索手続開始後に搬入された物にも、令状の効力は及び得る。

(2) では、手続開始後に搬入された乙のボストンバッグにも捜索令状の効力が及び得るとして、本件ボストンバッグにも具体的に令状の効力が及ぶか。

ア この点、乙は本件捜索差押許可状の被疑者たるAとA方居室に同居し、かつAの親族である。すなわち、乙のボストンバッグが物理的な空間としてA方に入る過程でAによる占有取得行為は介在していないとしても、乙は普段、A方に届く郵便物等を受領することも可能な立場にあるから、同ボストンバッグは、Aによる占有取得に準ずる過程を経て、A方という空間に入ったものと評価できる。

 また、乙が所持するボストンバッグが、乙とは異なる第三者の所有物であると窺われる事情もなければ、チャックに重ねて別途施錠されていたという事情もない。

 したがって、同ボストンバッグは、当該場所に関するものと別個独立に保護されるプライバシー的期待の存在しないA方居室という場所に属する物と評価できる。なお、同ボストンバッグを乙が所持しているという事実によって捜索に係る「正当な理由」の存否が左右されないことは前述のとおりである。

イ よって、ボストンバッグは本件捜索差押許可状の効力は乙が所持するボストンバッグにも及ぶと考える。

(3) 以上より、乙が所持するボストンバッグは本件捜索差押許可状によって捜索することが可能である。

2 では、捜索に際して、乙を羽交締めにした行為は適法か。

(1) この点、捜索差押手続に対する妨害行為に対しては、それを排除して捜索差押えの目的を達成するために、「必要な処分」(同法222条1項、111条1項)として、捜査比例の原則に適合する必要かつ相当な手段を講じることができる。

(2) 本件では、A方居室に属するボストンバッグが捜索の対象となっているところ、乙がこれを両腕で抱きかかえて捜索を拒否しており、これを排除せずには捜索を実施することができないから、羽交い絞めにして、乙の腕をバッグから剥がす必要がある。

 また、Pらは、有形力行使に先立って口頭で中身の開示を促しているし、乙の顔面を殴打して抵抗を排除するといった攻撃的手段ではなく、乙の両腕をバッグから剥がす直截的な手段である羽交締めを選択しているから、上記必要性に照らし、相当な範囲の有形力行使であるといえる。

(3) よって、本件の羽交締めも「必要な処分」として適法である。

3 以上より、②の行為は全体として適法である。

                                    以 上

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 もちろん、批判的にご検討いただければと思いますが、最低限、上記くらいの答案を書けるようになっていないと、「不勉強」と言われても文句は言えないかな、と思います。さて、息抜きはここまでですかね…DD頑張ります…!

【書評】憲法の演習書・判例集・その他

 こんにちは、すしおです。

 またしても、だいぶ更新が止まってしまいました…だめですねぇ。

 読んでいただいていた方には大変申し訳ありません。大型の訴訟やM&Aが重なるとしばらく身動きがとれないのですよね~

 

 さて、本日は、憲法の演習書・判例集の書評です。

 司法試験の論文式試験対策として、演習書は役立つことが多いのですが、憲法の場合は、ほとんど役立つことがありません。というのも、過去問を解いたことがある方はお分かりと思いますが、憲法という科目は、典型論点を事例問題の中から抽出できるかという能力や既存の議論(の論証パターン)を吐き出せば得点になる、という科目ではないからです。憲法という科目は、そういった能力ではなく、目の前の事案を最高裁判例と主要な学説を参照しながら分析する能力+その分析(審査密度の設定やあてはめ、判例の射程あるいはどの判例を参照できるかの検討が配点ポイントになります。)を言語化する能力が他の科目に比して飛び抜けて重要です。後者の能力は、その能力を備えた人に答案を添削してもらうほかに対策のしようがありません。前者の能力については演習書で鍛えられるのですが、残念ながら、本記事執筆時点で公刊されている演習書に掲載されている事例問題は司法試験の問題に比べれば、だいぶレベルが低い(というか日本で実際にあった事例のリメイクにすぎない)ので、前者の能力を鍛えるにもやや物足りない感があります。

 判例集は、通読するというよりは、基本書や演習書で出会う判例の判文に当たりつつ、深い理解を得る副教材として最低一冊は必要です。必ずどれか一冊は持っておきましょう(判文に当たらずに判例学習した気になっている受験生にたまに会いますが、そのような表面的な薄っぺらい知識で論文式試験が解けるほど甘くはないと思います。)。

 というわけで、既にレビュー済みの基本書を順に複数読み進めていただき、基礎的な分析力を地道に養っていただく、というのが険しいながらも最短ルートになると思います。周囲に優秀な勉強仲間がいれば、一緒に司法試験の過去問を検討するのもよいと思います!なお、大事なことなので、(思い出したこのタイミングで)敢えて申し上げますが、「優秀でない」(と思う)方と過去問検討会をするのは時間の無駄なのでやめましょう。仲良しな時間を過ごしたいなら止めませんが、試験勉強という意味では、自分よりも優秀でない人とだらだら喋りながら、あーでもないこーでもないと話していても何の能力も伸びていません。私は法科大学院を経由して司法試験を受験しましたが、他校を含め、法科大学院にもこういった無意味な勉強会をしている人が大勢いました…。

 

 以上のとおり、演習書の有用性は高くないのですが、レビューしてみます。すしおが思う用法も記載してみましたので併せてご参考になれば嬉しいです^^

 

【演習書】

1.宍戸常寿編著「憲法演習ノート〔第2版〕」

  司法試験 ★★★★☆

  予備試験 ★★★★☆

憲法演習ノート: 憲法を楽しむ21問

憲法演習ノート: 憲法を楽しむ21問

 

   弘文堂の演習ノートシリーズの憲法パートですね(選択科目が倒産法の方は「倒産法演習ノート〔第3版〕」は必読です!)。憲法の演習書、の中では比較的使いやすい一冊だと思います。複数の先生の共著になっており、一部、(少なくとも私は)読みにくい、分かりにくい章があったりします。受験生のときはその部分は読み飛ばしていました(ほかにいくらでも読むべきものはあるので…)。

  本書の用法ですが、純粋に事例問題を解く、という用法はおススメしません。設例を読み、①審査密度(法令違憲の事例であれば、違憲審査基準の厳格度)をめぐってどのような主張・見解の対立があり得るか、②自分で設定した審査密度を前提にあてはめにおいてどのような主張・見解の対立があり得るか、③この2つとの関係でどの判例をどのように参照できるか、を解説を読まずに検討し(15分くらいでやりましょう。試験本番も答案構成にはせいぜい20分~30分程度しか割けないと思いますので、演習のときは自分を追い込みましょう。)、解説を読んで答え合わせ、という用法がおススメです。解説の中で、参照判例の幅広さや、参照判例自体の深い理解に出会えることもありますので、一度読んだら、その問題から得た知識や視点をまとめノートに書き写すなどして情報の一元化に努めましょう。

 

2.木下智史ほか編著「事例研究憲法〔第2版〕」

  司法試験 ★★★☆☆

  予備試験 ★★☆☆☆ 

事例研究 憲法 第2版

事例研究 憲法 第2版

 

  日本評論社の事例研究シリーズの憲法パートですね(事例研究行政法が特に有名ですね!)。

 こちらは、設例・解説ともに長めで、私のような憲法の勉強が大好きな変人以外には少し重たい一冊かもしれません(なお、私人間効力(団体vs構成員という事案類型)の問題は秀逸で理解がグッと深まったのを覚えています。)。

 司法試験との関係では、余力がある人や憲法を得意科目にしたい人は一日一題を目安にゆっくり読み進めていかれるのがよいのでは?と思います。司法試験との関係で必携とまでは思いませんので、基礎固めや他の科目に力を割かないといけない、といった受験生の方は後回しでOKだと思います。

 

3.渋谷秀樹「憲法起案演習」

  司法試験 ★★★☆☆

  予備試験 ★★☆☆☆

憲法起案演習―司法試験編

憲法起案演習―司法試験編

  • 作者:渋谷 秀樹
  • 発売日: 2017/12/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

  司法試験の過去問を題材にした演習書です。こう言っては何ですが、受験生の悩み(答案の書き方や判例の理解そのものなど)に応えるとはいえず、読み物として読んでいくにはいいのかな…と思います。答案の分量も、制限時間内に書くことができる量を(少なくとも私の筆記速度ベースでは)優に超えており、なぜそのような書き方になるのか、といった思考過程が見えないので、私が受験生であれば、本書に助けられることはあまりないだろうな、という印象です。

 

 

判例集

1.長谷部恭男ほか編「憲法判例百選Ⅰ・Ⅱ〔第7版〕」

  司法試験 ★☆☆☆☆

  予備試験 ★☆☆☆☆ 

憲法判例百選I 第7版 (別冊ジュリスト)

憲法判例百選I 第7版 (別冊ジュリスト)

  • 発売日: 2019/11/29
  • メディア: ムック
 
憲法判例百選II 第7版 (別冊ジュリスト)

憲法判例百選II 第7版 (別冊ジュリスト)

  • 発売日: 2019/11/29
  • メディア: ムック
 

 いわずと知れた判例百選ですが、司法試験・予備試験の論文式試験との関係では★1つです。誤解している受験生も多いなと感じるので、敢えてこの評価をつけています。

 判例百選に載っている判例」である、ということは重要なのですが、 見開き1頁という極めて少ない紙幅の限界がある本書は、教材として不十分というほかありません。きちんと解説しようと思えば、事案の概要と判旨を丁寧に紹介せざるを得ませんがそうすると解説が狭くなる、というジレンマを抱えた判例集で、百選解説で当該判例の理解が十分になることはあり得ません(司法試験との関係で百選が重要なのは、会社法・刑訴法のみです。選択科目が倒産法の方は倒産判例百選も必携です!)。

 一部の法科大学院では判例百選の上記のような問題点を無視して教材指定し、未修者の方を中心に判例百選を一生懸命読んで「憲法分からない…」と悩んでおられる方がいらっしゃるようですが、それはあたりまえです…。

 というわけで、司法試験との関係で、判例百選憲法の重要性はかなり低いということはここできちんと強調しておきます。

 

2.戸松秀典・初宿正典編著「憲法判例〔第8版〕」

  司法試験 ★☆☆☆☆

  予備試験 ★☆☆☆☆ 

憲法判例 第8版

憲法判例 第8版

 

  あまり説明は要らないと思いますが、解説を伴わない判例集なので、学習上は不要です。私が法学部生の頃はあまり判文を詳細に紹介する判例集がなかったので、重宝することもあったのですが、近時は判文も丁寧に引用しながら解説を付している判例集が増えてきているので、本書の利用価値は低いと評価せざるを得ないと思います。ちなみに、書籍の表紙デザインは個人的にかなり好みです。

 

3.木下昌彦編集代表「精読判例憲法〔人権編〕」

  司法試験 ★★★★★

  予備試験 ★★★★★ 

精読憲法判例[人権編]

精読憲法判例[人権編]

  • 発売日: 2018/02/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 平成30年に公刊された判例集ですが、本記事執筆時点では最良の判例集といってよいと思います。判文の紹介も詳細で、解説も該当の判文の箇所が分かるように付してあって便利ですね。判例の理解は判例集のみから、ではなく、基本書等から学んでいくのがまずは第一歩なので、副教材としてお手元においていただく判例集としては大変おススメです!

 分厚くてサイズが大きめ、というのと掲載判例が少し少ない?が個人的にはマイナスポイントですが、もはや趣味の領域なので、気にせず、お手元に一冊置いておきましょう。

 

4.横大道聡編著「憲法判例の射程〔第2版〕」

  司法試験 ★★★★★

  予備試験 ★★★★★ 

憲法判例の射程 第2版

憲法判例の射程 第2版

  • 発売日: 2020/08/25
  • メディア: 単行本
 

 こちらも、最近よく利用されている判例本ではないかと思います。

 判例をじっくり丁寧に読みたい、というタイプの方は上掲の「精読憲法判例」の方がよいのでは?と思いますが、私のように、まずはその判例のポイント等をクイックに掴みたい、というタイプの方は本書がおススメです。

 司法試験の答案では、既存の有名な判例への言及は必須ですし(といっても、近年の司法試験は言葉を失うほどにレベルが下がっている印象で、とうとう、令和4年は、短答突破後の論文式試験の倍率が2倍を下回ってましたね…)、予備試験でも、既存の判例にきちんと言及できるのが望ましいと思います。

 しかし、未だに答案にきちんと判例を使えない受験生が大半なので、本書も利用しながら答案に判例が使えるようになると一気に得点を上げることができるのではないかと思います。もちろん、判例の使い方、の理解が先決で、本書を読んだら判例が使えるようになる、というものではないと思いますが、判例の使い方がわかってきたら、本書を読み進めて、効率よく、重要判例のエッセンスを蓄えていくのがよいのではないか、と思います。

 かなりの人数での共著、のため、解説文の読みやすさやレベルに相応のばらつきがあるのが残念なポイントです。わかりにくいと感じる解説はさっさと読み飛ばす(その判例については別の教材で勉強すればよいだけです。)、という用法でよいと思います。

 

 

 さて、ここまで、いろいろと書籍を紹介してきました。

 本当はまだまだあるのですが、受験生として触れておくべき書籍群としては、本ブログでご紹介した範囲で概ねカバーされているのではないか、と思います。時間的に余力がある方や、気分転換に憲法の少し深い勉強を、という方は、表現の自由などの重要テーマを中心に、権威あるところから論文を読み進めていくといいと思います。政府言論や違憲な条件の法理、匿名表現の自由、など受験生としては必須でない考え方も、理解しておくと司法試験で大いに役立ちます(文系でも、数3Cを勉強しておくと大学受験で使えるよ!みたいなイメージです。)。

 

 というわけで、次回からは刑訴法に話題を変えていこうと思います。

 あ、そういえば、最近こんな本も出ましたね!笑 息抜きに読んでみては?と思います。

 

 

 息抜きとして読むのにおススメな本として、ほかにも

 

 

 がおススメです。

 ふぅ、今日はここまでですかね。次回もお楽しみにしていただければと思います。どこかで一回司法試験の解説とかもしないといけませんね…!

 

 

【書評】憲法の基本書・その3

 

 

 こんにちは、すしおです。仕事等で更新ができておらずでした><

 今回は憲法の基本書(とはいってもいわゆる「基本書」ではないのですが…)のレビュー第3弾です。前回に引き続き、必携の書籍も出てまいりますし、基本書選びの際の参考になれば、幸いです。

 

11.宍戸常寿「憲法 解釈論の応用と展開〔第2版〕」 

  司法試験 ★★★★☆

  予備試験 ★★★★☆

  基礎学習 ★★★☆☆

  応用学習 ★★★★☆

憲法 解釈論の応用と展開

憲法 解釈論の応用と展開

 

 法学セミナーの連載が書籍化した宍戸先生の単著です。

 司法試験及び予備試験の論文式試験で安定して上位答案を書くレベルまでステップアップするのであれば、本書は必読です!基本的な事項を解きほぐし、深い理解を提供してくれる一冊で、随所に高度な議論も紹介されています(章末に掲載されている参考文献まで読まないと理解が深まらないところもあるので、ラクしたい受験生としては、もう少し参考文献の内容にも踏み込んでほしいのに…とは思いますが、他方で、きちんと文献に当たってほしいという思いもよくわかりますので、悩ましいところかと思います。)。

 予備校等で「最低限の」あるいは「一定程度の」学習を終えている方は、ステップアップのための一冊目として本書に挑戦してもよいと思います予備校で教わった内容で「憲法はバッチリ」ということはまずあり得ないので。)。おそらくはじめは「何が書いてあるかわからない」「どこが重要なのかわからない」ということもあろうかと思いますが(筆者もそうでした…)、くじけずに少なくとも人権分野は読み進めてみることをお勧めします。本書の内容がイマイチ掴めないときは「憲法はまだまだだな…」ということですので、本書と向き合いつつ、理解を深めていきましょう!憲法論文式試験では(本来は問題文に指定されるまでもないことなのですが)反対説にも言及することが求められます。本書では、種々の論点について、いろいろな考え方・視点に言及されており、その点も試験勉強のための教材としてgoodです(念のため敷衍すれば、色々な見解に言及してあるということは、そのどれかを自分が採用したとき、そのほかは必要に応じて答案で言及する反対説になる、ということです。)。

 基本的には優れた良書なのですが、本書の記載は、答案を書くことを必ずしも想定していないので(著者はしているつもりかもしれませんが、そうであれば不十分です。)、本書の記載を理解できたとして、それをどのようにどの程度、司法試験・予備試験の論文式試験に再現するかは悩ましさが残ると思います(まだ案内はしておりませんが、追ってご案内する私の憲法の講座ではこういった悩みもフォローしております)。敷衍すれば、本書を読み進めても直ちに答案のレベルが上がるわけでは必ずしもないことに注意が必要です。憲法について深く理解することと、理解したことを自分の言葉で答案に起こすことは別の能力で、後者は人それぞれとしか言いようがありませんので、後者の能力も日々鍛えていく必要があります。後者の能力は、どの科目でもよいので、基本書等を読んで、それを自作の論証パターンにする、という作業によって鍛えられますし、その論証パターンは試験まで使えますので、一石二鳥ですね^^

 本書を読み進めるときは、別途、自分のまとめノートなどに該当ページとともに控えておくなどしながら学習を進め、答案でどのように表現するかを常に並行して考えるようにするのがよいのではないかと思います。今なお、受験生の多くが手に取る本の一冊だと思いますので、余力のある方や憲法を得意科目にしたい方は必携です。

 

12.駒村圭吾憲法訴訟の現代的転回-憲法的論証を求めて」

  司法試験 ★★★★☆

  予備試験 ★★★★☆

  基礎学習 ★★★★★

  応用学習 ★★★☆☆ 

  こちらも、法学セミナーの連載が書籍化された一冊ですね。私が受験生なら、改版を希望しますが、改版予定も耳にしたことはなく、少し古めの一冊になってしまいましたね(私が学生の頃は新しい本だったのですが…)。憲法の勉強が進んだ学生なら、書籍名にニヤリとしたものを感じるはずです(有名な一冊が想起されますね。)。

 さて、こちらは、個人的には宍戸先生の書籍よりもオススメです。余裕があれば、もちろん両方読んでほしいのですが、そうも言っていられない受験生も少なくないと思いますので、そういった方はこちらを手に取ることをオススメします。

 理由ですが、本書は特に表現の自由や職業の自由、平等原則といった論文式試験において理解を深めておくことが求められる分野について特に重点的に解説されている印象で、受験生の手の届かないところに手が届く記述もたくさんあります(例:内容規制と内容中立規制の分水嶺、堀越事件判決の理解の仕方、薬事法違憲判決が示した判断定式の構造などなど)。

 宍戸先生の本と異なり、教科書風の記述ですので、答案にも落とし込みやすいのがポイントです。予備校で憲法を一通り勉強した方、基本書等で人権分野について一通り学習した方は、ぜひ本書を副読本として、個別の議論について理解を深めていってください!副読本としては、後掲の木村先生の書籍と並んで、大変優れた良書であり(その意味で基礎学習教材としては文句なしの★5です。)、応用的な論点にも平易な(注:人によって個人差があります)表現で解説を加えてくれています。憲法を得意科目にしたい方のみならず、苦手を克服したいといった方にもオススメできる良書です。司法試験の論文式試験の勉強をするうえで、私も本書は何度も読み返したました。一部違憲の判断方法論や文面審査、第三者の権利主張適格など論点の網羅性もしっかりしていますので、受験生必携の一冊であることは間違いないと思います。

 司法試験のようなやや長い答案を書く試験においては、特に理解の浅い答案と深く理解できている答案の差が露骨に出ますので、本書を読み進めながら、自身の理解が甘かったところをブラッシュアップしていってください(おそらく、はじめのうちは、「そういうことだったのか!」という記述が満載だと思います。)。

 

13.木村草太「憲法の急所-権利論を組み立てる〔第2版〕」

  司法試験 ★★★★★

  予備試験 ★★★★★

  基礎学習 ★★★☆☆

  応用学習 ★★☆☆☆ 

憲法の急所──権利論を組み立てる 第2版

憲法の急所──権利論を組み立てる 第2版

  • 作者:木村 草太
  • 発売日: 2017/03/30
  • メディア: 単行本
 

  メディアにもたびたび登場される木村先生の単著ですね。みなさまもご存じのとおり、数年前までは、論文式試験の出題傾向として、具体的な訴訟を前提に、原告(または被告人)と被告(または検察官)の立場から主張・反論を戦わせ、それらを踏まえて私見を述べることが求められる、というものが確立していました。本書は二部構成になっているのですが、第二部は従前の試験傾向を前提とする記述なのですが、その点を加味しても、受験生が手に取る教材としては大変優れた良書だと思います。なお、最近、試験傾向の変化について、採点実感等を形式的にしか読めないことに起因する(言ってみればしょーもない)質問を受けることが多いので、簡単にコメントを。具体的な訴訟を前提とする主張反論型の出題形式と現在の出題形式で、書くべきことは全く変わりません(変わるはずがありません。)。採点実感が警鐘を鳴らすのは、主張・反論という形式に固執したり、違憲筋の見解と合憲筋の見解を紹介して試験で中道的な見解を採用するといった形式に固執することであって、主張と反論という対立構造で学習することや思考することを否定するものではありません。反対の立場に言及してほしい、というメッセージを受験生の多くが「適切に」汲み取れないので、上記の形式のみ守っていれば「反対の立場に言及」したことにはならない、ということを言いたいのです。詳細は、私の講義の中ででも!笑

 さて、書評に戻ります(お会いしたことはありませんが、木村先生、なんかごめんなさい。)。

 本書は二部構成になっていますが、個人的には、第二部(演習編)のみ読んでいただくのがよいと思います。憲法の学習が進んでいる方は第一部もお読みいただくと色々と発見があると思いますが、学習が進まないうちは、学説においても共通理解を得ていると思われる記述と木村先生なりの解釈論との峻別がつかない可能性が高いと思います。残念ながら司法試験の答案に木村説をベースとする論述を書いても点数は伸びにくいと思いますので、その意味で、敢えて第一部は読み飛ばす、という用法がおススメです。

 第二部は、さすが木村先生、と言いたくなるほどに秀逸です。学説と判例がバランスよく参照され、多角的に分析するとはどういうことか、その模範演技の1つを示してくれています。私見ですが、問題演習形式になっていても、自力で解くのは時間の無駄なので(深い理解を伴っていない状態でう~ん、う~んとどれだけ悩んでも、判らないままです。)、さっさと読み進めてしまいましょう。本書を読み進めていけば、特に、審査密度の設定においてどのような対立軸が具体的な事案において生じるのかイメージがもてると思います。現時点の試験傾向からすると法令違憲がほとんど(出うるとして処分違憲でしょうか(その場合は、●●という行政処分をしようと思っているが憲法上問題はないか、と質問された弁護士の立場で答案を書く問題なのかなぁと予想しております。)。)ですので、法令違憲についての記述を中心に読み進めるのがよいかと思います。特に、憲法について理解が浅いうちは発見が多く、他方で、身につくところまではいかない方が多いのではないかと思いますので(すしおもそうでした。)、そういう方は二周しましょう!

 予備試験レベルであれば、本書の水準で答案を書ければまず間違いなく圧倒的上位の答案になると思います(すしおが予備校等で答案の添削をしている経験値からしても…)。教科書テイストではなく、具体的な設例をもとに解説が進んでいく方がよい、という方には特におススメの良書です。

 

14.小山剛ほか編「判例から考える憲法

  司法試験 ★★★★★

  予備試験 ★★★☆☆

  基礎学習 ★★☆☆☆

  応用学習 ★★★☆☆

 

判例から考える憲法

判例から考える憲法

  • 発売日: 2014/05/01
  • メディア: 単行本
 

  こちらは、書名のとおり、判例から考える」訓練をするうえでは、現時点で他の追随を許さない良書です。予備試験の論文式試験の問題は、紙幅と時間の都合上、判例の射程を詳細に論じている余裕などない受験生がほとんどで、主要な学説を参照するだけでも十分説得的な答案が書けますので、予備試験との関係では必読とまでは思いませんが、司法試験との関係では必読です(本書を読まずに「判例がうまく使えません」と質問された場合は、まずこの本を読んでから質問してください、と答えるようにしています。)。

 本書も、具体的な設例をもとに解説が進んでいき、従来型の試験傾向に沿った書籍ですが、その点を考慮しても学ぶことが多い一冊です。受験生目線でいえば、もう少し判例の射程や判例の解釈をめぐる争点について深堀してほしいところも少なくないのですが、あまり高度な記載にしても却ってわかりにくくなるので、その点は敢えて言及を避けているのかな、と善解しています。こちらも、時間を計って解く、といった無駄なことはせず、サクサク読み進める用法をおススメします。本書を読み進めることで、ある程度の類型ごとに、「想起すべき判例」「判例を想起して争点との関連を理解する」というものが分かってくると思います。本書には、(すしお的には)参照可能性がある判例の一部が漏れていたりしますが、それはそれで、それに気づけるかどうか、が勉強の1つと割り切っていました。その意味で、本書で「100%十分」というわけでは必ずしもないのですが、具体的な事案において判例を想起する能力の土台作りのためにぜひ手に取ってほしい一冊です。本書を読む前と後では、司法試験の論文式試験の問題を見た時に想起できる判例の数、内容が全く異なっていると思います(仮にそうならないときは、もう一度読みましょう。)。 

 

15.松本和彦「事例問題から考える憲法

  司法試験 ★★☆☆☆

  予備試験 ★★★☆☆

  基礎学習 ★★☆☆☆

  応用学習 ★★☆☆☆

 

事例問題から考える憲法 (法学教室ライブラリィ)

事例問題から考える憲法 (法学教室ライブラリィ)

  • 作者:松本 和彦
  • 発売日: 2018/05/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

  大阪大学の松本先生の単著です。比較的最近の書籍で、ページ数も少ないので、サラリと読める点はgoodです!

 憲法の理解が進んでいる方は、最後の総括的に読んでみるとよいかと思いますが、憲法がまだまだ苦手、といった方は、本書より先に、上記12.13.14あたりを読む方が格段に効率が良いと思います。本書は記述が薄い分、行間を読めるレベルに達してないと、なんとなくわかった気になるだけ、で終わってしまう方が多いのではないかと思います。すしおも通読してみましたが、本書から学ぶ(ここでは、本書を読まないと得られない、の意)ことはありませんでした(他書から学べることばかりです。)。

 具体的な設例付きでないとなかなか頭に入らない、という方で、13.14.はすでに読み終えて、次に進みたい、という方向け、でしょうか。本書をスラスラと読み解ければ、一定水準の理解度には到達していると思いますので、自身の学習度を測るメルクマールとしても有益な一冊ですが、限られた時間の中で憲法の苦手を克服し、あるいは確実に上位合格答案を書けるようになりたいとお考えの方にとって、必読とまでは言えないと考えています。

 

 本日は、ここまでです!

 もう少しだけ憲法の書籍を紹介したら、行政法民法の勉強法・書評へ進んでいこうと思います!「こんな記事を書いてほしい!」「先にこの科目から扱ってほしい!」などございましたら、ぜひぜひコメントくださいませ!

 

 

 

 

 

【書評】憲法の基本書・その2

 本日は、前回に引き続き、憲法の基本書の書評・第2弾です。

 今回は共著の基本書を中心にレビューしてみます。今回から、受験生必携の書籍も出てまいりますので、チェックしてみてくださいね。

 また、私がレビューしてない本で「この本はどーですか?」というのがあれば、どしどしお寄せください(なんなら買って読みます(笑))。

 

6.野中俊彦ほか「憲法Ⅰ〔第5版〕」

  司法試験 ★★☆☆☆

  予備試験 ★★★☆☆

  基礎学習 ★★☆☆☆

  応用学習 ★☆☆☆☆

憲法1 第5版

憲法1 第5版

 

 これまた言わずと知れた「四人組」(四人本という方もいますね)です。

 (少なくとも後掲の新四人組が出るまでは)基本書としてかなり定評があったので、筆者も学部生のときに購入し、学習のベースとしていました。今でも教科書指定している先生や法科大学院の講義があっても違和感はありません。

 しかし、私は、日々の学習の中で「よくわからない」点に出くわしたとき、本書を読んでも「よくわからない」ままであることがほとんどでした。後述のとおり、記述が薄いので、結局、別の書籍にもあたってみなくてはなりません。

 他方で、一つの論点について様々な見解・立場があることを知ることができるという意味では依然として良書だと思います。

 特に、判例の射程等を検討する必要がない(というより時間的・紙幅的余裕がない)予備試験のための基礎固めとしての利用価値は否定しません(その意味で予備試験との関係では★3つにしました。)。しかしながら、憲法にばかり時間を割いていられないのですが、読む書籍を絞りたいなら、本書は手元になくてもよいかもしれません。

 本書は、基本的に記述が薄いので、個別の論点や判例について理解を深めたいときに読んでも痒い所に手が届かないことが多いと思います。

 他方で、個別の論点について、見解ごとに論拠と批判を紹介している箇所が多いので、「そもそもどういう論点なのか分からない」「自説はあるけど、それに対する説得的な批判と再批判が思い当たらない」などの悩みには一定程度応えてくれると思います。

 予備校に通っていて、個別の論点について、A説・B説・C説・・・といった形である程度、見解の対立を押さえている方には不要な一冊、というまとめ方も可能です。予備校を利用されていない方においては、各論点ごとに、まずはどのような見解対立があり、どれくらい重要な論点なのかを押さえていく意味で、いわば「最初の一冊」としてもよいかもしれませんね。

 予備試験の論文式試験のレベルであれば、本書記載の内容を理解し、自分の言葉で表現できるレベルになっていれば、上位答案を書く土台としては十分でしょう(本書のみで上位合格答案をコンスタントに書くのはやや難しいかもしれません。)。

 総じて、良書、ではありますので、お手元に置いておいて損はない一冊ですが、後掲の新四人組の方が、より試験勉強には適しています。

 なお、本書は、統治分野も対になっていますが(野中俊彦ほか「憲法Ⅱ〔第5版〕」)、短答式も含めて、司法試験・予備試験向けの学習との関係では不要な一冊といって間違いないと思います。

 

6’ 野中俊彦ほか「憲法Ⅱ〔第5版〕」

憲法2 第5版

憲法2 第5版

 

  司法試験 ★☆☆☆☆

  予備試験 ★☆☆☆☆

 

7.渡辺康行ほか「憲法Ⅰ 基本権」

  司法試験 ★★★★★

  予備試験 ★★★★★

  基礎学習 ★★★★☆

  応用学習 ★★☆☆☆ 

憲法I  基本権

憲法I 基本権

 

  いわゆる「新四人本」です。現時点で、司法試験・予備試験向けの基本書として最適なのが本書です。

 本書を頭から読み進めていくことで、三段階審査的思考で審査密度を措定する流れを総論的につかみ、各個別の人権について、その理解を各論的に深めていくことができるよう工夫されています。

 「これ一冊だけで」憲法の学習として盤石、なわけではないのですが、基本書の数も多くなってきましたから、効率的に学習教材を選択していかなければならず、その際に、本書が最有力候補になることは間違いありません。

 筆者が司法試験を受験するときにはまだ本書は公刊されていなかったのですが、本書にもっと早く出会えていたら、もっと効率的に理解を深めることができたのにな~と思いました。

 司法試験の論文式試験では、いわゆる三段階審査(ドイツ憲法学ではもはや常識になっている思考定式です)的に思考を組み立てて論述を書くのがベストです。これは、司法試験で当初から三段階審査が採用されているからではなく(とはいえ、とある元最高裁判事に言わせれば、最高裁の中にもこの思考枠組みがあるといってよいらしいので、司法試験もそうかもしれません・・・)、自分の考えたことを端的に読み手(採点者)に伝える上で簡明な思考枠組みだからです。例えば、表現の自由に対する内容規制は、他の規制に比して厳格な審査が妥当する、と説かれますね。これは、三段階審査的に説明すれば、違憲審査の審査密度は被制約権利の重要性と規制態様の強度(と立法裁量または行政裁量を尊重(縮減)すべき自由の有無)を考慮して決定すべきところ、内容規制は規制態様として強力だから審査密度が厳格になる、といった説明になります(詳述すると長くなるので説明は敢えて端折っています。)。すなわち、内容規制vs内容中立規制という対立軸は、三段階審査を軸においた答案の中では、「審査密度を決定する考慮要素の1つである規制態様に関する議論」と明確に位置付けることが可能になります。

 以上のような理解を前提に、本書は、個別の論点・判例を、審査密度の決定過程のどこに位置付けるべきかを意識して説明がなされているので、思考の整理にもうってつけの良書です。

 繰り返しで恐縮ですが、本書だけ、ではダメですが、「基本書」として1冊何か買うなら、筆者は、ダントツで本書が最適だとおススメできます。まだお手元にない方で、憲法の学習が行き詰っていたり、イマイチ伸び悩んでいる、といった方はぜひ本書を手に取って読み進めてみてください。なお、あくまでも基本書なので、応用学習としては不十分な面があります、そこは他書を読みながら、でよいと思います。

 なお、こちらも統治分野がセットになっていますが、司法試験・予備試験の学習との関係では不要です(短答対策としてもややオーバースペックです。)。

 

7’ 渡辺康行ほか「憲法Ⅱ 総論・統治」

憲法II 総論・統治

憲法II 総論・統治

 

  司法試験 ★☆☆☆☆

  予備試験 ★☆☆☆☆

 

8.毛利透ほか「憲法Ⅱ 人権(LEGAL QUEST)〔第2版〕」

  司法試験 ★☆☆☆☆

  予備試験 ★☆☆☆☆

  基礎学習 ★☆☆☆☆

  応用学習 ★☆☆☆☆ 

憲法II 人権 第2版 (LEGAL QUEST)

憲法II 人権 第2版 (LEGAL QUEST)

 

 いわゆる「リークエ」の憲法ですね。

 有斐閣や「リークエ」編集者に悪意はないのですが、刑訴法を除き、リークエは出来が悪いですね…。おすすめの基本書を友人にきいて「リークエ」を勧められたら、その友人は基本書選定との関係では信頼性皆無と判断してよいと思います(笑)

 本書は、学習上不要と判断し、通読まではしていませんが、脚注もなく、何がだれの見解で、といったことも分かりませんし、個別の議論の体系的位置づけも不明瞭な記載が多いように感じられます。また、旧四人本に比して、紹介されている学説も少ないので、敢えて本書を選択する理由が特に見当たりません。

 憲法は、論者によって見解がまちまち、といったことも多いので、それらを整理して理解することが、私も含め、凡人にとっては難関の1つです。学習の過程で「憲法ってよくわからない…」という境地に達するときは、この難関で立ち止まっていることが多いのではないかと思います。

 本書でこの難関を突破できるとは到底思えませんので、手元になくて何ら問題ない一冊だと考えます。なお、本書も総論・統治がセットになっていますが(毛利透ほか「憲法Ⅰ 総論・統治(LEGAL QUEST)〔第2版〕 」)、試験対策としてはまず不要です。

 

8’ 毛利透ほか「憲法Ⅰ 総論・統治(LEGAL QUEST)〔第2版〕 」 

憲法I 総論・統治 第2版 (LEGAL QUEST)

憲法I 総論・統治 第2版 (LEGAL QUEST)

 

  司法試験 ★☆☆☆☆

  予備試験 ★☆☆☆☆

  

9.安西文雄ほか「憲法学読本〔第3版〕」

  司法試験 ★★★★☆

  予備試験 ★★★★★

  基礎学習 ★★★★☆

  応用学習 ★★☆☆☆ 

憲法学読本 第3版

憲法学読本 第3版

 

 こちらも、結論から申し上げれば、良書ですね。ただし、(私の感覚では)三段階審査的思考が身についてから読まないと、記述を自分のものにできない気がします(本書自体は、各種議論の体系的位置づけにそこまで配慮していないような気がします)。

 本書は、かなり薄めなのですが、反面、記述は洗練されていて、簡にして要を得たとはこのこと、といった一冊です。特に、宍戸先生がご執筆されている表現の自由の箇所は必読ですね(本書でしか見かけたことがないように思いますが、内容中立規制の箇所は、本書を読んだことがあるかないかで、試験の点数が変わる場合があるといっても過言ではありません。)。

 新四人本や、小山先生の「『憲法上の権利』の作法」等で三段階審査的思考を身につけるのが先決ですが、ある程度、身についてきたな、イメージは持ててきたなと思ったら、副読本として手元において、立ち止まる度に読んでみるべき一冊です。

 ややコンパクトな書評で恐縮ですが、要は、勉強が進んできたら手元に置いておいて都度参照してね!ということです。

 

10.木下智史・伊藤建「基本憲法基本的人権

  司法試験 ★★★☆☆

  予備試験 ★★★★☆

  基礎学習 ★★★★☆

  応用学習 ★★☆☆☆ 

基本憲法I 基本的人権

基本憲法I 基本的人権

 

 基本刑法もそうですが、「予備校本的な基本書」という一冊です。伊藤建先生は、予備校講師ですね。「憲法の流儀」というブログでも有名で(憲法の流儀~実学としての憲法解釈論~ (ameblo.jp))、かつて黄色い看板の予備校で憲法を教えておられたこともある受験指導の世界では有名な先生です。伊藤先生は私よりもはるかに憲法の理解に長けていると思いますが、あともう少し、受験生の悩みに真正面から応える本にすればよいのに…というのが、初読の際の感想でした(書ききれないdilemmaは理解できますが、そのまま答案に書いても点数はつかないレベルにとどまった抽象的な記述も多いですね。)。

 本書は、徹頭徹尾、「司法試験対策として」記述が進んでいきますので、一冊目に手に取る本としては、ベストかもしれません。本書だけで司法試験に挑むのは、(センスにあふれた一部の方を除き)危険だと思いますので、本書からステップアップして次なる書籍へ進んで欲しいと思いますが、事例問題に対する検討の視点や、判例の使い方も随所で説明がなされており、総じて、受験生向けの良書といえます。なお、私が仮にまだ受験生であれば、(失礼ながら権威に不安大なので笑)本書をベースに学習することはないと思います。本書で仮にピンとくる記述があっても、その裏付けが取れないと答案には怖くて書けません(なので、まずは脚注を付せばいいのに、と心から思いますね…。)。そして、脚注がないので、いちいち裏取りをしなければならない点で、学習上は不便が残る一冊です。

 と、やや消極的なコメントも申し上げましたが、とある論点や判例で行き詰ってしまったときに、本書は紐解いてみる候補になる一冊でもあると思います。司法試験受験生向けの記述にはなっていますので、理解のヒントになることも多いかもしれません。ただ、繰り返しますが、「本書に書いてあるから」という理由のみで試験の答案で堂々と書くのは危ない橋を渡りすぎですので、可能な限りできちんと裏取りもしましょう。

 

まだまだ続く

【書評】憲法の基本書・その1

 さて、ここからは、憲法の基本書について、私が手元に持っていて読んだことがある範囲で(ときにその範囲を逸脱することもありますがご容赦ください)、試験との重要性に焦点をあてて書評を書いていきます。もちろん、筆者の私見ですので、ご参考までに。

 まず、1~5の単著の基本書は、どれも有名な一冊ですね。これらを知らずに「憲法を勉強した」とは言えません。しかし、そのことと司法試験・予備試験の論文式試験の勉強は別です。結論としては、1~5のうち、持っておくとしても1冊(私のおすすめはやはり「試験に最も通用する」という意味で芦部憲法です)持っておけば十分だと感じています。もちろん、憲法学習が楽しい方などにおかれましては、次々と読み進めていっていただければと思います。ただし、ほかの科目の勉強も大事ですから、趣味だと割り切ってくださいね。

 

1.芦部信喜憲法〔第7版〕』

  司法試験 ★★☆☆☆

  予備試験 ★★☆☆☆

  基礎学習 ★★☆☆☆

  応用学習 ★☆☆☆☆ 

 

憲法 第七版

憲法 第七版

  • 作者:芦部 信喜
  • 発売日: 2019/03/09
  • メディア: 単行本
 

  言わずと知れた「芦部憲法」です。

 司法試験・予備試験に向けた勉強との関係でいえば、重要度はかなり低い一冊といわざるを得ません。もちろん、書いてある内容それ自体は、我が国の憲法学を基礎をなすものとなっている箇所が多く、高橋先生の補訂箇所を含め、記述も洗練されています。

 しかしながら、司法試験・予備試験のために必要な「判例の射程の検討のためのエッセンス」あるいは「有力な学説」は掲載されていません。また、芦部先生の憲法学を学ぼうと思えば、本書ではなく、後ほどご紹介する別の書籍や個別の論文を読むほかないので、結局のところ、本書からはあまり学習することはない、ということになります。

 平成28年度及び令和2年度の司法試験でも出題された移動の自由などの受験界ではマイナーな人権について、「最低限学習しておくべき内容は何か」と問われれば、本書に記述されている内容ということになるので、その意味で、受験の直前期に、「最低限度の理解」を確認するときには利用価値があるかもしれません

 これから紹介する他の書籍を用いるなどして憲法を深く勉強していけば、本書の水準もクリアできますのでその点はご心配なく。「芦部憲法」を何度繰り返し読んでも、論文式試験の勉強にはなりませんので、その意味で書籍としての重要度は★2つです。

 

2.高橋和之立憲主義日本国憲法〔第5版〕」

  司法試験 ★☆☆☆☆

  予備試験 ★☆☆☆☆

  基礎学習 ★★☆☆☆

  応用学習 ★☆☆☆☆

立憲主義と日本国憲法 第5版

立憲主義と日本国憲法 第5版

  • 作者:高橋 和之
  • 発売日: 2020/04/15
  • メディア: 単行本
 

  こちらも、言わずと知れた「高橋憲法」ですが、概ね、芦部憲法と同様の理由で、学習上の重要性は低い一冊です。表現の自由の箇所は、記述が充実していて他書にはない高橋先生の見解がクリアに現れている箇所もありますので、表現の自由の学習をするときに「高橋憲法」の該当箇所も読んでみる、というのは理解を深める上で有益だと思います。

 

3.佐藤幸治日本国憲法論〔第2版〕』

  司法試験 ★☆☆☆☆

  予備試験 ★☆☆☆☆

  基礎学習 ★☆☆☆☆

  応用学習 ★☆☆☆☆ 

日本国憲法論 第2版 (法学叢書7)

日本国憲法論 第2版 (法学叢書7)

  • 作者:佐藤 幸治
  • 発売日: 2020/09/25
  • メディア: 単行本
 

 さらにこちらも、言わずと知れた「佐藤幸治憲法」です。2020年に約9年ぶりの改版となりましたね!

 佐藤幸治先生、といえば、例えば、自己情報コントロール権という権利概念を提唱されたことで有名だったりしますね。「憲法を学習した、と胸を張って言いたい」ということが目標なら、(多少分厚いけど)本書くらい読んでおいてねと言いたいところですが、本ブログの読者のみなさんは確実に司法試験・予備試験の論文式試験を突破することが目標のはずですので、その目標との関係ではやはり重要性が低い一冊ですね。

 また、芦部憲法に比べるとかなり分厚いですし、さっと読むのにも適さないので、手元になくても問題ない一冊です。 

 

4.長谷部恭男「憲法〔第7版〕」

  司法試験 ★☆☆☆☆

  予備試験 ★☆☆☆☆

  基礎学習 ★☆☆☆☆

  応用学習 ★☆☆☆☆

 

憲法 (新法学ライブラリ)

憲法 (新法学ライブラリ)

 

  さらにさらにこちらも、言わずと知れた「長谷部憲法」です。長谷部憲法学、というと有名な示唆・視点は多いのですが、司法試験・予備試験との関係ではやや重要性が下がります(長谷部先生のご見解を知っていないと核心に迫れない問題など、実務家登用試験では出題され得ません。)。

 長谷部先生のご見解や権威を否定する趣旨ではなく、あくまでも、確実に論文式試験を突破するためのツールとして、本書は適さない、という意味で、重要度はかなり低いと考えています。憲法の勉強が進んでくると「ベースライン論」をはじめとする長谷部先生のご見解に触れることがあると思います。長谷部先生のご見解の内容等を学びたい、知っておきたいというときには、今度は本書では記述が薄すぎますので、長谷部恭男『憲法の理性〔増補新装版〕』(後掲)などを紐解くのが手っ取り早いと思います。そのほかにも長谷部恭男「比較不能な価値の迷路〔増補新装版〕」など単著がいくつかありますので、目次を見ながら深めたいテーマに関する論稿があれば読んでみる、というのであれば「趣味としては」goodだと思います(論文式試験との関係では他にやるべきことがいくらでもありますのでそちらを優先しましょう)。

 

4’ 長谷部恭男「憲法の理性〔増補新装版〕」

憲法の理性 増補新装版

憲法の理性 増補新装版

 

  司法試験 ★☆☆☆☆

  予備試験 ★☆☆☆☆

  基礎学習 ★☆☆☆☆

  応用学習 ★★★★☆

  マニア度 ★★★★☆

 

5.戸松秀典「憲法

  司法試験 ★★☆☆☆

  予備試験 ★★☆☆☆

  基礎学習 ★★☆☆☆

  応用学習 ★☆☆☆☆

憲法

憲法

  • 作者:戸松 秀典
  • 発売日: 2015/05/22
  • メディア: 単行本
 

 こちらは、芦部先生、高橋先生、佐藤先生、長谷部先生にくらべると少しネームバリューが落ちるでしょうかね 。別途、紹介しますが、戸松先生といえば、戸松秀典「憲法訴訟〔第2版〕」の方が有名でしょうか(後掲。こちらは、数年前の出題傾向(訴訟を前提とした主張反論型)を前提にすればかなり有益な一冊でした。)。現在は、高橋先生の「体系憲法訴訟」もありますが、同書が公刊されるまでは、憲法訴訟について体系的にまとめた書籍は戸松先生のご著書くらいしかありませんでした。

 風のうわさで、本書が東大法学部の講義で教科書指定されていると聞いたことがありますが、それもうなづけるほど、記述が安定していて偏っていません。上述のとおり、私は芦部先生の憲法の方が読みやすい印象でしたが、一冊、コアになる本をもっておきたいという方には本書もおススメできます。ただし、本書のみで論文式試験の対策を行うのは不可能ですので、その意味で重要度はやはり低い一冊といわざるを得ません。

 

5’ 戸松秀典「憲法訴訟〔第2版〕」

 

憲法訴訟 第2版

憲法訴訟 第2版

  • 作者:戸松 秀典
  • 発売日: 2008/03/07
  • メディア: 単行本
 

 

  司法試験 ★☆☆☆☆

  予備試験 ★☆☆☆☆

  基礎学習 ★☆☆☆☆

  応用学習 ★★★☆☆

  マニア度 ★★★☆☆

 

 

 

続く

憲法の勉強法・その2(上位答案を書く方法と論文試験における検討の道筋)

 今回は、憲法の勉強法のいわば前提として、どのように論文試験の問題にアプローチするのが「高得点への」近道かを書いてみます。どのような答案に高得点がつくのか、をイメージできていないと、勉強法の方向性も定まり得ないですよね。もちろん、私個人が試験の採点基準など知る由もないのですが、少なくとも、今日においてなお、受験生の9割以上が憲法という科目については「高得点への」道を模索することを諦め、「一定の水準の」答案を書くことに終始しているようです。

 したがって、特に憲法という科目については、「高得点を目指して」答案を書くことが、他の受験生に差をつける意味で、特に重要です。

 また、答練や模試の問題・解説を見ている限り、新司法試験になって10年以上経過した今日においてさえ、予備校(特に自らを「一流」と誤信している講師陣)も、自ら問題を作成しておきながら、当該事案との関係で重要な最高裁判例の射程を検討することも、有力な学説等を踏まえて説得的な論述を経て審査密度を定めることも全くできていません。(自ら問題を作成しておきながら、失笑ものです……)。司法試験の過去問解説講義等もありますが、判例を踏まえたアプローチに成功しているものは見たことがありません。

 やや話が逸れましたが、ここで確認しておきたいことは、当該事案(皆様が受験される際の論文式試験の問題)との関係で、きちんと判例の射程を検討し(後述しますが、どういう文脈で、なぜ判例の射程を検討するのか、を理解することが大事です。)、説得的な論述を経て審査密度を定めることさえできれば、それだけで、予備校の指導を妄信し、予備校が作成する模範答案を字義どおり「模範」だと思っている受験生集団よりも相対的に上位の答案になります。

 現時点でも、最高裁判例の射程や有力な学説を踏まえた答案を書ける受験生はかなり少ないと思われます。なぜなら、市販されている再現答案の中で公法系上位に位置する答案のほとんどが最高裁判例の射程の検討を経ていないためです(ただし、説得的な論述を経て審査密度を定めるものはそれなりに存在します。)。その結果、判例の射程を踏まえ、かつ、説得的な論述を経て審査密度を定めるところまで到達すれば、まず間違いなく(相対的な)上位答案になります

 もちろん、当てずっぽうでこのように考えているわけではありません。これまで採点実感等で、繰り返し、判例を踏まえて検討することが求められていることは司法試験委員サイドから明示されていましたし、近年は、問題文にそれが明記されるようにさえなりましたから、判例(司法試験では最高裁判例のみ検討すれば十分で、先例性のない下級審裁判例はまずは学習の対象外として問題ありません。)を踏まえた答案を書くことが最低限求められるはずです。それにもかかわらず、上記のとおり、それすらできない受験生がほとんどなのですから、それ(判例を踏まえた答案を書くこと)さえできれば上位答案になるのは当然ですね。現に、私も、公法系は2桁(憲法は自称1桁…)ですが、判例を踏まえた論述に1頁以上を割きました。

 というわけで、長くなりましたが、勉強法の方向性を定める上で、判例を踏まえて答案を書けるようになることが中核を占めそうであることは確認できました。あとはその方法ですが、それは一様ではないでしょう。「憲法の勉強法・その1」で記載したとおり、追って、自作教材を用いた講義あるいは勉強会等を提案できればとは思いますが、いずれにしても、この記事を読んでいただいた皆様におかれましては、自分の勉強法の方向性が正しいか、今一度見直して頂くのがよいかと思います。

 また、その次に重要なのが、(一定程度権威のある)学説の理解です。例えば、内容規制vs内容中立規制という対立軸がありますが、㋐これは一体何に関する対立なのか、㋑内容規制と内容中立規制はどのように分けるのか(まさか、「内容に着目した規制か否か」だとは思っていませんよね?それでは水掛け論になるだけです。)、㋒内容中立規制であれば本当に審査密度は厳格化しないのか、などの問いに、皆さんは自分の言葉で答えられるでしょうか。仮に答えられないとすれば、司法試験の問題で内容規制の疑義がある事案が出ても、その点について何ら説得的な答案を書く準備ができていないということです(言い方は厳しいですが「勉強不足」です。)。

 またしても、抽象的かつ雑駁なのですが、まとめると、結局、

 ①判例を踏まえた答案を書けるようになること(そのためには何が必要か、まずは考えてみることが重要です。)

 ②重要な学説について理解し、自分の言葉で説明できるようになること

 を目指さなければなりません。私のこの理解が正しければ(と書きながら、私は正しいと確信していますが(笑))、予備校本をいくら読んでも全く憲法の答案のクオリティは上がりませんし、芦部先生の『憲法』1冊でも到底無理なことは分かりますよね?

 私は受験生時代、20冊以上の基本書・演習書は手元において学習していましたが、本来はこれくらい必要だと思います。もっとも、読んでみたけど「これは要らないな…」というものもありましたので、書評の際にその点は明記するようにしようと思います。私が作成した教材は論文や最高裁判例解説まで当然網羅していますので、またしても乞うご期待。

 この記事がみなさまの勉強法を見直す契機となれば幸いです。長くなってしまいましたが徐々に具体化していこうと思いますので、お付き合いいただければ嬉しいです。

憲法の勉強法・その1(総論+雑感)

 本日は、憲法の勉強法を書いていきます。

 憲法については、基本書選びがとにかく大事です。

 小手先の技術で太刀打ちできない科目であるにもかかわらず、そのことには目をつむり、基本書をきちんと読むこともなく、「答案の書き方」や「違憲審査基準って使っていいの?」などという(私に言わせれば申し訳ないのですが)合格からは程遠い低レベルなところでいつまでも右往左往している受験生が目立ちます。

 憲法の答案に決まった書き方も型もありません、それよりも前に、憲法に関する主要判例と学説を「正確に理解」することを目指さないといけないわけです(当然のことですよね?)

 憲法の学習が難しい原因の1つは、学説も含めて一定の水準にまで到達しないと、判例学習が深まっていかない点にあると思います。例えば、平等原則に関する問題が出題されたとき、ほぼすべての事案において、国籍法3条1項違憲判決(最大判平20・6・4民集62巻6号1367頁)を参照した答案が書けるのですが、ピンときますでしょうか。司法試験(予備試験)においては、判例を参照した答案を書くことが求められていますが、予備校が作成する参考答案には、平成が終わった今日においてなお、判例の参照がまるでない答案やとても参照とは呼べないレベルの言及しかない答案が散見されます。

 これは見方を変えるとチャンスです。すなわち、まだほとんどの受験生が「判例を参照した」答案を書くことができないので、それさえできてしまえば相対的に上位に浮上します。私は自称憲法1桁順位ですが、そう確信しているのは、答案の4分の1は判例の射程の検討で、かつ、最も踏み込んだ検討をしているのもそこだからです。

 さて、勉強法に話を戻すと、憲法には「これ1冊で大丈夫」という書籍はありません。ないのですから、教材を絞るのはやめましょう、自殺行為です。手を広げないことも大事!、という意見を聞きますが、結論において誤りです。手を広げない、という鉄則は、「自分のキャパシティに比して過度に」手を広げること戒める一種の教訓であって、手を広げることそれ自体を悪とするものではないからです。憲法の学習は、一定程度、いろんな書籍を読んでいく必要があり、それをせずに「憲法でいい答案が書けない」と悩むのは、素振りもキャッチボールもせずに野球がうまくならないと嘆いているのと同じことです。

 以上の次第で、憲法はある程度、いろいろ読んでみることが必要不可欠なのですが、10冊も20冊も読んでいられる学生・受験生ばかりではないと思いますので、基本書等のchoiceが大事です。

 基本書等のレビューは ↓ の記事をご参照ください。

 

nunc-scitote.hatenablog.com

 

 人権分野の問題が出題される限りにおいては、立法又は(行政)処分の憲法適合性が問われることがほとんどだと予想されます。最近の試験傾向からすれば、法令違憲の問題がほとんどになるのかもしれません。そうすると、違憲審査基準をどのように定めるのか、を理解することがまずは出発点ということになってきそうですね。

 ここまでのことをまとめると(若干の敷衍も含みます)、

 ①基本書・演習書は数冊手元に置いておき、通読を目指す(まとめノートを作っている方は適宜まとめノートに理解をまとめていく)

 ②違憲審査基準の定め方を理解する

 ③違憲審査基準の定め方、との関係で主要判例の位置づけ・判示の意味合いを押さえていく(この判例ってこういうことを言ってるんだよね、というぼんやりしたものでは無意味です。この判例は、違憲審査基準の審査密度を決定するに際して、こういう論理の下でこういう事実を重視しているね、ということまで理解し、かつ、自分の言葉で説明し、射程距離が把握できる必要があるのです。)

 という学習が必須になります。当てはめはその次ですが、違憲審査基準の定め方をきちんと理解できる頃には自然とあてはめの仕方も身についてきていると思います。 

 

 ところで、ここまで読んでいただいた方の中には、それでもなかなか勉強法がつかめない方も少なくないと思います。追って、このブログで自作教材及びそれを用いた講義(あるいは少人数webゼミ)のご案内をする予定なので、必要に応じてご検討ください。この教材は、受験生が目を通すべき教材や論文のほとんどに目を通した筆者が「判例を用いて答案を書くこと」ができるようになることを志向して作成したもので、皆さんが基本書や演習書のみからやや膨大な時間をかけて憲法の勉強を進めていかれるところをショートカットすることを目的としています。私の教材と講義を吸収してもらえれば、どんな事案でも、皆さんが知っている有名な判例を参照しながら答案が書けるようになります。過去の司法試験の問題は全て皆さんが知っている最高裁判例を参照して説得的に違憲審査基準を定めることができる事例ばかりです。これに気付いていない方は、まだまだ判例学習の道半ば、ということですね。乞うご期待。

 もちろん、みなさんが基本書・演習書で着実に理解を深めていかれることを否定するものでもありませんので、あくまでも「必要に応じて」ご検討くださいませ。

 次回は、もう少し具体的に(各論的に)学習法を書いてみようと思います(私が実際にとった勉強法がベースです。)。科目の性質上、抽象的な説明にならざるを得ないのですが、ご参考になれば幸いです。おしまい。